創業者の教えを通じて社員の意思統一を徹底したからこそ、右肩上がりの成長を遂げられた。創業100周年に売上高10兆円。壮大な目標に向け、これまでの成功パターンは通用するのか。

2014年に賃貸住宅の管理戸数全米3位のリンカーンと提携し、契約締結式で握手する大野社長(右)。オーナー企業である点が大和ハウスにとってパートナー選定の重要基準だった

 能登半島の根元に位置する石川県志賀町。JR羽咋駅を降り、車を25分ほど走らせると、緑の中にひっそりと立つ山荘が見えてくる。大和ハウスの創業者である石橋信夫氏が晩年を過ごした別荘だ。

 1年ほど前。この山荘に足を運ぼうと、大阪と金沢を結ぶ特急サンダーバード号に乗る米国人男性がいた。企業のM&A(合併・買収)のアドバイザー業務を手掛ける米系投資銀行モーリス・アンド・カンパニーの担当者だ。

 当時、大和ハウスは米国の住宅会社スタンレー・マーチン(バージニア州)の買収を水面下で進めていた。樋口武男会長がモーリスに出した条件はさして多くはなかったが、意外なものが含まれていた。「買収案件をまとめる前に、我が社の精神を分かってほしい」。それでモーリスの担当者は現地に向かった。

 2016年10月26日、大和ハウスはスタンレー・マーチンを263億円で買収すると発表。出遅れていた米東海岸での事業拡大に向け一歩を踏み出した。

 この買収で樋口会長はモーリスにもう一つ条件を出していた。「買収先はオーナー企業にしてくれ」。スタンレー・マーチンは創業者一族が発行済み株式の約50%を保有。樋口会長のお眼鏡にかなった企業だった。

 一般に大企業がM&Aをする際に重視するのは買収先企業の将来キャッシュフローや財務体質などだ。それらを徹底的に分析し、ふるいにかける。オーナー企業であるかどうかは本来二の次。少なくとも第1条件とするのは合理性を欠く。