保護主義的なトランプ米大統領の誕生で、世界が内向きになりつつある。グローバリゼーションの修正は、技術の急速な進歩によっても加速する。「長期」「短期」で一貫した戦略を作り、絶えず変革し続けなければならない。

(聞き手は 飯田展久、大竹 剛)

(写真:陶山 勉、以下同)
(写真:陶山 勉、以下同)
PROFILE
リッチ・レッサー(Rich Lesser)氏
米P&Gを経て、1988年に米ボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。ニューヨーク・オフィス代表、南北アメリカ地域代表などを経て、2013年1月から現職。米ハーバード大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得

 問 トランプ大統領の誕生や英国の欧州連合(EU)離脱など、2017年はかつてないほど先行きを見通すのが難しい年になりそうです。そうした環境で、企業にはどのような経営が求められるでしょうか。

 答 長期的に持続可能なビジネスをするには、いくつか決定的に重要な観点があると思います。

 まず第1に、顧客志向に徹し、もっともっと価値ある製品やサービスを提供し続けることです。これは、企業組織にとって最も重要な活力源の1つです。

 第2に、人材を引きつけることです。優秀な人材を採用するのが重要なのはもちろんですが、採用した人材が成長し、組織に貢献し続けられる環境を作り出すことが大切です。

 第3に、現在の世界情勢においてこれまで以上に重要になっているのが、変化への対応力です。世界の変化に応じて学習し、進化し、変化する能力が求められます。

 そして、もう1つ重要な事があります。これが特に私が強調したい点ですが、多様なステークホルダーに向き合う能力が、かつてないほど重要になるでしょう。

 20年ほど前なら、経営者はほとんど顧客や生産性、コスト効率、研究開発(R&D)などだけにフォーカスしていればよかったわけですが、今の世の中、国ごとに異なる政府や規制当局の仕組みを理解し、共に事業を行うことが極めて重要になっています。そして、従業員の満足度を高めることが大切なほか、気候変動をはじめとする環境面での持続可能性(サステナビリティー)への配慮も欠かせません。

 こうした多様なステークホルダーの満足度を高めている企業は、株主価値の向上だけに注力していたり、もしくは自分たちのビジネスに関する狭い視野しか持っていなかったりする企業と比べて、競争上、優位に立つことができます。

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