CSR(企業の社会的責任)に基づき慈善活動を展開する企業は多い。だが、レンズ大手の仏エシロールは、慈善活動の限界を認識し事業に変えた。社会課題の解決をビジネスにするには制約が多いが、それが革新を加速する。

(聞き手は 蛯谷 敏)

PROFILE
ヒューバート・サニエレス(Hubert Sagnières)氏
1989年入社。カナダ、米国法人の社長を経て、2008年COO(最高執行責任者)、2010年CEO(最高経営責任者)。2012年1月から会長兼務。「Improving lives by improving sight」をミッションに、社会課題の解決と利益成長を両立させる経営を実践する。2017年1月16日、メガネ大手のイタリアのルクソティカとの合併を発表した。合併後の新会社では、副会長に就任する予定。

 問 インドで2014年から、「EYE MITRA(アイミトラ)」と呼ぶ人材育成プログラムを始めています。狙いはどこにあるのでしょうか。

 答 あまり知られていませんが、インドでは今、国民の視力悪化が社会問題になっています。視力が悪いまま自動車を運転して事故を起こしたり、工場現場の作業で部品を取り違えてミスをしたり。それらが積もり積もって、社会の大きなコストになりつつあります。一方で、自分自身の視力が弱っていることを自覚していない人も多い。特に、眼鏡店や眼科のない都市郊外では、そうした人が増えています。

 インドで2014年に開始した「EYE MITRA(アイミトラ=目の友達)」プロジェクトは、この社会課題を解決するために開始しました(詳細は特集PART1を参照)」。眼鏡店を開業できる人材育成を通じて、インドが抱える課題を解決し、かつ我々も成長を目指すものです。

 エシロールは1972年にフランスのレンズメーカー2社が合併して誕生しましたが、その起源は1881年まで遡ります。当時から、「Vision(視覚)」にまつわるビジネスを一貫して展開してきました。インドやアフリカといった新興国にも90年代から拠点を築いていました。ただ、新興国の経済規模は先進国よりもやはり小さい。このため、眼鏡の無料配布や無料の視力検査など、チャリティーを通じた啓蒙活動を続けるケースが多かったのです。

 そんな状況が変わってきたのが、2000年代後半からでした。新興国でも目覚ましい経済発展が始まりました。都市部ではビジネスが活発になり、先進国と変わらない収入を得る人も出てきました。しかし、都市部を離れた郊外では、依然として所得の低い人が大勢いる。そして、冒頭に述べたような問題が顕在化していたのです。

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