問 ポーター教授はCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)、つまり、ビジネスを通じて社会課題を解決していく重要性を提唱しています。英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)やトランプ大統領誕生の根底に、グローバリゼーションの恩恵にあずかれなかった人々の不満があるとすれば、企業は共通価値の創造をこれまで以上に目指す必要があるのではないでしょうか。

マイケル・ポーター氏
マイケル・ポーター氏
米ハーバード大学教授。競争戦略論の権威。寄付などに頼る社会貢献ではなく、事業で社会との共通価値を創造する「CSV(Creating Shared Value)」を提唱してきた。(写真=竹井 俊晴)

 答 その通りです。ブレグジットやトランプ大統領の誕生によって、企業は社会課題の解決により積極的に取り組む必要性を認識するでしょう。

 CSVは博愛の精神ではありません。企業が競争上、ライバルとは異なる方法で優位に立つための戦略です。そのムーブメントが今、加速しています。

 社会に与える影響への配慮を企業に求める動きは、ますます大きくなっています。もはや、全てのステークホルダーへの配慮なくして、ビジネスは成り立ちません。しかも、社会課題の解決に取り組むことが、株主にとっても有益だと理解され始めています。エネルギー効率を改善したり、健康に寄与する商品を作ったり、従業員の成長機会を用意したりすることは、持続的な成長に不可欠なことだからです。

 共通価値の創造という概念は、資本主義が持つ究極の力を引き出します。企業自身が競争で優位に立つために社会課題を解決していくようになれば、企業が得た利益の再配分を政府に任せるよりも威力を発揮するでしょう。

 問 そうした活動は、もうかっている企業だけができる、ボランティアのようなものだろうと冷ややかに見る人もいます。

 答 善い行いは余計なコストがかかり、利益を圧迫すると考えられていました。社会的な課題解決と経済的利益の追求は衝突するという考え方は、完全には死に絶えてはいません。しかし、製品の差別化やサプライチェーンの効率化などを追求する上でも、共通価値の創造が合理的なことは、様々な先進事例や調査・研究などから明らかです。

 確かに一昔前は、『公害は利益』と考えられていました。ゴミを処分するコストを社会に外部化するから、企業はもうかるのだと。しかし、今は公害を出さないことが利益につながると、誰もが理解しているはずです。省エネを進めれば、利益率は良くなりますよね。つまり、社会的なコストを企業が内部化するビジネスモデルこそが、持続的な成長に欠かせなくなったわけです。

 この革命的な発想の転換を進めていけば、企業が最も尊敬される機関となる新しい時代が到来するでしょう。政府が何かをするには、税金を徴収しなければなりませんし、NGO(非政府組織)の活動には寄付が必要です。政府もNGOも、効率的に物事を大規模に展開することがうまくできません。

 これからの時代は、企業こそが社会変革で最もパワフルな役目を果たすようになります。資金規模は、政府もNGOも企業には遠く及びません。企業こそが、社会課題の解決の主役になるべきなのです。

 問 保護主義的な政策の拡大などで、グローバル企業と各国政府の関係はぎくしゃくし始めています。

 答 これまで企業は政府やNGOと衝突することもありましたが、これからは協力する時代です。非常にエキサイティングな時代になると思いませんか。私は企業がリーダーシップを発揮して、多くの社会課題が解決されていくと楽観視しています。今はグローバリゼーションに対して様々な疑念や懸念が生まれていますが、資本主義は本質的に社会に有用なものですから。

日経ビジネス2017年1月23日号 41ページより

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