主要先進国で最下位という日本の生産性の低さはサービス業が元凶と指摘される。マニュアルに沿った画一的なサービスで対価を得るのは、もはや難しくなってきた。顧客や状況に応じて臨機応変にサービスを提供できる現場力が不可欠だ。

(写真=吉田 健一)
(写真=吉田 健一)

 商品を作る製造業とは違って、サービス業では顧客と接する現場でその都度、サービスが提供されるので、本社や管理部門が「品質管理」をしにくい。では経営者に何ができるのか。

 「最前線でサービスを提供しているスタッフが、いかに自分で発想し、経営マインドを持って行動するかということがすごく大事。このため、スタッフ一人ひとりに権限を委譲し、そして経営の情報を提供する必要がある」

 星野リゾート代表の星野佳路氏はこう語る。複雑で高度になる消費者の要求に直面するサービスの現場は、本社が作ったマニュアルで対応しきれるわけがないのだ。

 PART 3で見てきたように、ITの導入がサービス向上のための大きな力になるのは間違いない。ただその一方で、人手を使うサービスで効果を最大限引き出すには何が必要なのか。訪日外国人に評判の、小さな旅館に示唆がある。

復活の小旅館が示す「本質」

 「お客さんとしっかり話して、できることはできる、できないことはできない、とちゃんと伝える。だから毎回、綱渡りなんですよ」。東京・谷中にある旅館「澤の屋」の澤功館主は笑う。

<span class="fontBold">「おもてなしは顧客によって違っていい」という信念を持つ澤館主</span>
「おもてなしは顧客によって違っていい」という信念を持つ澤館主
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 客室数はわずか12。豪華な懐石料理があるわけでもない。大型な加賀屋とは対照的だが、訪日観光客の間での知名度は、負けてはいない。世界から、この小さな旅館を目指してやってきた客は、累計19万人に上るという。

 1980年代に経営が傾き、いち早く外国人客に焦点を合わせたのが成功の大きなポイント。外国人を引き付ける要因は、できるできないをその都度、判断して正直に伝える姿勢と、多種多様な要望に応じる柔軟さにある。「新幹線のチケットを取るのは駅が遠すぎるから無理。でも名前入りの誕生日ケーキを用意するくらいなら近所の洋菓子店に駆け込めばいい」(澤氏)。もちろんそこに固定化したマニュアルはない。「おもてなしは、お客によって違っていい」

 澤の屋が示すのは、働く人それぞれが、臨機応変に判断できる現場力こそが、顧客の心をつかむという本質だ。

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