従来計画に色を付けて発表

 現時点では、トヨタはトランプ氏の“ツイッター攻撃”をうまくかわしている。トランプ氏の発言を受けて、即座に米国の雇用には影響がないと反論。過去60年間に累計220億ドル(約2兆5300億円、1ドル=115円)を投資し、13万6000人の雇用を生んだと訴えた。

 1月9日、米デトロイトのモーターショーで豊田章男社長は、今後5年間で米国に100億ドル(約1兆1500億円)を投資すると表明。生産ラインの拡充や北米新本社の建設など、既存の計画に多少色を付けたにすぎないが、豊田社長自らが雇用への貢献を力を込めてアピールした。

 トヨタは、1980年代の苛烈な日米貿易摩擦を経て、「米国市民」になるために現地化を進めてきた。だが、これまでの「ローカリゼーション」よりもっと深いレベルで、雇用拡大へのコミットメントを求められる可能性がある。米空調大手キヤリアや米自動車大手フォード・モーターがメキシコ工場の建設計画を撤回したのは、そうした新時代の幕開けを予感させる。

 ヒト・モノ・カネの自由な移動を理想としたグローバリゼーションに逆行する潮流は、トランプ氏の登場以前から確実に勢いを増していた。大統領選でトランプ氏の対抗馬だったヒラリー・クリントン氏も、TPP(環太平洋経済連携協定)に反対。英国も欧州連合(EU)からの離脱を決めた。「新興国特有だった保護主義政策が、世界経済の停滞によって先進国にも飛び火している」(ボストン コンサルティング グループの杉田浩章・日本代表)。

 米ザ コカ・コーラ カンパニーのムーター・ケント会長兼CEO(最高経営責任者)は、「米国だけではなく、世界中で経済成長の恩恵を受けられなかった人々が失望している」と指摘する。世界の内向き傾向がグローバル資本主義のひずみによるものなら、国境を越えて活動する全ての企業は、トヨタのように進出先の社会から、様々な難題を突き付けられるリスクがある。実際、トヨタは雇用にとどまらず、環境や安全など、成長の副作用とも言える社会的課題にあちこちで直面している。

 トヨタは気候変動対策の業界リーダーではない──。

 国際NGO(非政府組織)のCDPはかつて、気候変動対策において、トヨタより高い格付けを日産自動車に付与していた。CDPは総資産100兆ドル(約1京1500兆円)規模の世界827の投資家を代表しており、影響力は絶大だ。

 日産は2010年、「2050年までに新車のCO2排出量を90%減」にする目標を公表。一方、トヨタが同様の目標を掲げた「環境チャレンジ2050」を発表したのは2015年。出遅れたのは、「それほど長期の目標を世界に約束できない」という、技術陣を中心とした慎重意見だった。2016年、ようやくEV(電気自動車)開発の専門組織を立ち上げた。

 交通事故死の減少につながる自動運転への取り組みでも、厳しい視線が注がれてきた。欧米勢が開発中の自動運転技術を派手に発表する一方で、トヨタの取り組みは外部から見えにくかった。開発を水面下で進めていたからだが、「自動運転の技術開発にトヨタは消極的」と周囲は見た。大々的に自動運転の要素技術となるAI(人工知能)の開発に動いたのは2016年1月。10億ドル(1150億円)を投じて米シリコンバレーに研究所を設立してからだ。

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