衛星を使って養殖産業を変えようと、JAXAから若手エンジニアが飛び出した。問題意識とアイデアさえあれば「宇宙商売」は始められる。

(写真=loops7/Getty Images)

 リアス式海岸と複雑な潮の流れに恵まれ、養殖業が盛んな愛媛県愛南町。宇宙とは縁遠そうなこの町で、JAXAの元エンジニアがマダイやシマアジの養殖にイノベーションを起こそうと奮闘している。2016年9月に設立されたばかりのベンチャー企業、ウミトロンの創業者、藤原謙代表だ。

 養殖ではコストの半分以上を餌代が占める。高騰が続く餌代をいかに減らすかに、全国の養殖業者が頭を悩ませている。ウミトロンはIoT(モノのインターネット)と衛星データを組み合わせることでこのテーマに挑んでいる。

 藤原代表は東京工業大学で機械宇宙システムを学び、JAXAの研究開発員として衛星の制御技術を開発してきた。研究に没頭できる環境だったが、「宇宙技術が世の中の役に立つ機会が少ない」という問題意識を抱えていた。まずビジネスを知るために休職し、渡米。MBA(経営学修士)の取得後にJAXAを去り、数年間は三井物産でベンチャー投資に携わった。

 自分はどこで勝負すべきか。注目したのが養殖業だった。日本に強みがあり、人口増で世界的な需要も増える。いけすは沖合にあるため、工場や農地のようにセンサーをあちこちに配置してデータを取ることが難しい。地球を俯瞰できる衛星を使えば養殖業のIoT化を進められるともくろんだ。

 「職人の勘」が支配する養殖業では、魚が餌を積極的に食べる具体的な条件が分かっていない。そこで海中にカメラを設置し、魚が餌をどう食べているのかを分析し、スマホを使って遠隔地からでも餌やりができるようにした。

 そして今、取り組んでいるのが、このカメラの画像データと衛星からのデータを組み合わせたシステムの開発だ。衛星から海の色やプランクトンの量、海表面の温度などを把握する。

 こうしたデータと魚の行動との間に強い相関があることは分かっている。「まだ試験中だが、できるだけ早く実用化してサービスに落とし込んでいきたい」と藤原代表は意気込む。

 既に世界中で次々に衛星ベンチャーが立ち上がり、打ち上げ競争が本格化する。今後は、次々と打ち上がる衛星からの情報が、雨あられのごとく地上に降り注ぐ。「データ量は爆発的に増え、あらゆるビジネスが劇的に変わる。今から事業化を見据えて動かなければ間に合わない」(藤原代表)。