有望な宇宙ベンチャーは、何も米国だけの専売特許ではない。小型軽量化を可能にするモノ作り力、独自の衛星データ活用術で世界に挑む。

 ロケットや衛星の分野では米国勢を中心に熾烈な競争が始まっている。スペースXなどと同じ土俵で戦い、勝つことは容易ではない。地道な改善や工夫といった、日本の製造業が持つ強みを生かすことが活路になる。

わずか4kgの月面ローバー

 米国の非営利組織、Xプライズ財団が米グーグルをスポンサーに開催している民間初の無人月面探査コンテスト「Google Lunar X Prize(グーグル・ルナ・エックスプライズ)」。

 日本勢として唯一参加しているのが、宇宙ベンチャーのispace(アイスペース、東京都港区)を中心としたプロジェクトチーム「HAKUTO(ハクト)」だ。

 コンテストのミッションは「月面を500m以上走行し、機体に搭載されたカメラで月面の動画や画像を送信する」というもの。200度以上の温度差や降り注ぐ宇宙線に耐え、砂漠にも似た月面を安定して走行する能力が必要だ。2017年末にも月面を訪れる。

 未踏の領域にベンチャーが挑むハードルは技術的にも資金的にも高い。コンテストには当初34チームが参加していたが、撤退が相次ぎチーム数は半減。そんな中でハクトは順調に開発を進め、2015年には優れたチームを評価する中間賞を獲得。「小型軽量化とパフォーマンスを両立させている点が評価された」(アイスペースの秋元衆平・コミュニケーションマネージャー)。

 ハクトが開発するローバーの総重量は4kg程度になる見通し。2012年に火星に着陸したNASAの「キュリオシティ」(900kg)、中国の月面ローバー「玉兎号」(120kg)はもとより、コンテストを争う米チームが開発するローバー(30kg)よりも圧倒的に軽い。

 筐体には宇宙向けでは使われることの少ないCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を、車輪には軽量メガネなどで使われる特殊樹脂ウルテムを採用。車輪の外側にある羽根の数も、当初の23枚から走行性能が落ちないギリギリのラインである15枚に削り、約60gの軽量化に成功した。わずかなようでも、宇宙ビジネスにはグラム単位の軽量化が大きな意味を持つ。

 従来の日本の宇宙機器の開発では、JAXAが指定する高価な特注品を使うことが多かった。ハクトでは各車輪に民生品のモーターを取り付けるなど、特注品を極力減らす方針を徹底。全体の7割の部品が民生品で、スマートフォンや自動車向けの部品も数多く組み込まれている。宇宙で実績のない部品は試験し、必要であれば改造して使う。納期やコストを削るためだ。

 アイスペースの袴田武史CEO(最高経営責任者)は「日本の宇宙分野の技術力は高い。足りないのは事業化まで持っていく力だ」と言う。

 同社にとって今回のコンテストは宇宙事業の出発点にすぎない。小型ローバーが完成すれば、失敗を恐れることなく宇宙に運び込みやすくなる。そして探査を重ねれば重ねるほどデータと経験が積み上がる好循環に入る。惑星探査が本格化した暁には現地での移動に不可欠な存在となる。

(写真=HAKUTO提供)