ロケットで価格破壊を狙うスペースXが、宇宙ビジネスの常識を覆した。資源探査から企業の業績予測まで、新ビジネスが次々に生まれている。

(写真=Bloomberg/Getty Images)

 ロサンゼルス国際空港からハイウエーに乗り、クルマを走らせること約15分。ハイウエーを降りるとすぐに、3階建ての真っ白な巨大建築物が現れる。

 壁には「SPACE X」の文字。EV(電気自動車)メーカー、テスラ・モーターズの創業者でもあるイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が2002年に設立したロケット開発会社、スペースXの工場だ。

 「死ぬなら火星がいい」

 スペースXに勤める日本人技術者の桑田良昭氏は、マスクCEOが幾度となくこう発言するのを聞いた。

 同社が開発した商業用ロケット「ファルコン9」は、打ち上げコストを他社の半額に下げて業界に価格破壊をもたらした。これでスペースXは、新興企業ながら業界トップクラスに仲間入り。2016年9月の爆発事故により、打ち上げを一時中断したが、2017年1月に再開した。

火星に人類を運ぶ

 価格破壊で重要な役割を果たしたのが、ロケットの再利用化だ。2015年12月、スペースXは世界で初めて第1段ロケットの垂直着陸による回収に成功した。従来、ロケットは使い捨てだが、再利用が可能になればコストは下げられる。桑田氏は、この第1段ロケットの回収に不可欠な技術を開発した一人だ(下の囲み記事参照)。

スペースXを支える日本人技術者
ゼロから生み出す面白さを実感
2012年からスペースXで働く桑田良昭氏

 桑田良昭氏は、スペースXの「ファルコン9」の第1段ロケットを地上に垂直着陸させる制御ソフトウエアを開発した日本人技術者だ。

 1978年生まれの桑田氏は、2012年、NASAのジェット推進研究所からスペースXに転職した。マサチューセッツ工科大学の元クラスメートで、ジェット推進研究所の元同僚でもあった友人に、同社を案内してもらったのがきっかけとなった。

 スペースXを訪問して何より驚いたのは、まだ誰も達成したことのない業界最先端の開発を、20代や30代の若手が担っていたことだった。

 「ものすごい活気を感じた。ここなら開発のど真ん中を任せてもらえると思った」

 入社後、その希望はかなった。イーロン・マスクCEOが切望する、ロケットの再利用化に欠かせない根幹技術を担当することになったのだ。2015年12月、垂直着陸に成功。開発中は「夜中に悪夢を見て目が覚めることもあった」というが、実現した時には言いようのない達成感が湧き上がったという。

空中で姿勢を制御しながら地上に舞い降りるスペースXの「ファルコン9」

 若い人材を組織の駒で終わらせることなく、才能を思う存分、発揮してもらう。これがスペースXのやり方だ。同社が短期間で業界大手に成長できた、一つの原動力と言えるだろう。

 そんな桑田氏の今の目標は、火星に大量の物資を運べる技術の確立に貢献することだ。

 「現在、世の中にある技術では、火星に1トン程度の物資しか運べない。もっと多くの物資が運べれば、火星という惑星の詳細な研究が可能になるし、人類の移住も可能になる」

 宇宙ビジネスで才能を発揮する日本人技術者が、もっと増えてもいいとも思っている。「机上の学問ではなく、実務を学べるという意味では、スペースXのような企業は最適だ。ゼロから自分の頭で解決策を考えられて面白いし、やりがいがある」。

 企業はこうした人材を育成するためにも、若手に重要な仕事を任せる勇気も必要になる。

(写真=背景:Lisa Sullivan, Betty Photography/Getty Images)

 技術者を鼓舞するためだろうか。マスクCEOは先の発言の後、決まってこう続けるという。

 「でも死ぬのは寿命のせい。インパクト(ロケット事故)じゃない」

 マスクCEOが、火星に人類を運ぶ「インタープラネタリー・トランスポート・システム(惑星間輸送システム)」の構築を宣言したのは、2016年9月のことだ。価格破壊で業界の常識を一変させた実績があるだけに、今回の新事業も実現する可能性はある。

 マスクCEOの本気は、火星輸送の事業計画からも推察できる。新事業の根幹にある戦略は、ファルコン9で採用したものと同じ。輸送コストを一般の人たちが使えるレベルに落とし、利用を促進するというものだ。