トヨタ自動車が12月、EV(電気自動車)の開発に特化した社内ベンチャーを立ち上げる。グループ会社から専門家を集める少数精鋭の組織は、トヨタでは初めてとなる。素早い判断を下し、EVで先行する他社に対抗する。
「各社からEV(電気自動車)開発のノウハウを持つ幹部クラスを集める」。トヨタ自動車関係者はこう明かす。
トヨタは11月17日、EV開発に特化した社内ベンチャーを立ち上げると発表した。わずか4人の超少数精鋭部隊で、豊田章男社長の直轄下に置く。トヨタに加え、デンソー、アイシン精機、豊田自動織機のグループ3社がそれぞれ1人ずつ人材を出す。
外部人材を交えた少人数での社内ベンチャーはトヨタでは初めての試み。どのような人材が選ばれるかに注目が集まる。関係者によると各メンバーや今後の計画など新組織の具体的な内容を12月1日にも発表する予定。開発が進むにつれて増員する見通しだという。
開発の短期化が課題に
EV本格参入でエコカー全方位開発へ
●トヨタ自動車が持つ次世代エコカーと主な車種
トヨタは「究極のエコカー」と位置付けるFCV(燃料電池車)の「ミライ」を2014年12月に発売。同じ燃料電池システムを使った燃料電池バスを2017年1月に発売する。HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)にEVも加え、次世代エコカーを全方位で開発することになる。
新組織の狙いは開発の加速だ。2018年には米国のZEV(排ガスゼロのクルマ)規制厳格化と中国でのNEV(新エネルギー車)規制導入が控える。いずれもHVは対象外となり、EVの存在感が高まる可能性がある。豊田社長は「ベンチャー組織としてその分野だけを専門に考え、スピード感のある仕事の進め方を確立する」とコメントした。
ある欧州自動車メーカーの幹部は「EVでは開発サイクルはぐっと短くなる。トヨタの開発サイクルは27カ月と業界で最も短い部類だが、我々はEVで20カ月を達成する」と意気込む。部品点数が少なくなるEVでは、製品の投入サイクルが短くなると予想される。トヨタは最低限の人数で素早い意思決定ができるベンチャー組織で対抗する。
もう一つの狙いとみられるのが、EVにおけるグループ各社の役割を明確にすることだ。今回、メンバーとして加わる3社はトヨタグループの中核企業で、既にEV分野で実績がある。デンソーはクルマの頭脳であるECU(電子制御装置)をEV向けに開発しているほか、トヨタが2012年に限定発売した小型EV「eQ」や日産自動車「リーフ」向けにヒートポンプ式エアコンを出荷している。アイシン精機はHV用トランスミッションなどの実績が豊富。EVではトランスミッションが不要になるとの見方もあるが、「足回りの技術開発のノウハウはEVでも生きる」(アイシン精機広報)。
豊田自動織機には世界シェアトップのフォークリフト事業で培った電動化技術が眠る。アジア諸国で普及する3輪EVタクシー向けに超小型インバーターやモーターを納入するほか、三菱自動車の小型EV「アイ・ミーブ」や欧米メーカーの各種EVにエアコン用の電動コンプレッサーを出荷する。
いずれもトヨタ以外のメーカー向けで実績を積み重ねているが、トヨタのEV戦略が定まらなくてはグループ内で事業が重複する恐れがある。
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