トランプ次期米大統領がもし、公約通りの政策を実施したらどうなるか。日本企業が想定すべきリスクを大胆に先読みする緊急連載第1回は、「分断」に着目する。「iPhone」をやり玉に挙げ、中国製品に45%の関税を導入する可能性はその一つ。だが、それだけではない。

iPhoneのほぼ全量が、中国にある鴻海の工場で生産されている(写真=ロイター/アフロ)

 ある日系の電子部品メーカー幹部は天を仰いだ。手元には、主に中国で生産している部品を米国生産に切り替えた際の製造コストを、簡易的に示したシミュレーション結果がある。人件費や土地代、材料の輸送費など、思いつく限りの経費を計算した。結果は、少なくとも現在の倍。「米国生産はあまりにも現実味に乏しい」──。

9月に発売した米アップルの最新スマホiPhone7(写真=Spencer Platt/Getty Images)

 このメーカーが「非現実的」なコスト計算を始めたのには理由がある。トランプ次期米大統領の就任に備え、米アップルの「iPhone」を生産する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が、米国での生産を検討しているとの情報が業界内を駆け巡ったからだ。「まだ鴻海側から何も言われていない」(京セラ)と各社は口をそろえるが、「アップルは6月頃から鴻海側に米国生産の検討を打診していた」と語る関係者もいる。

 背景にあるのが、トランプ氏が選挙中に掲げてきた「中国からの輸入品に45%の関税をかける」との通商政策だ。トランプ氏の発言を巡っては、自動車産業への影響の大きさから、「NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉や離脱」に注目が集まるが、実は対中政策も日本企業に間接的な影響を及ぼす。その象徴が、日本企業が多くの電子部品を供給し、ほぼ全量が中国で生産されているiPhoneだ。中国製品の関税引き上げが実現すれば製品の値上げは避けられず、iPhoneの米国生産が選択肢として浮上した模様だ。

 しかし、「部品や材料メーカーはコストの関係からアジアに集積している。米国にはそういったインフラが一切ない」(TDK)。米国への生産移転は日系企業にとって容易ではない。

 関税で米中貿易を分断するという公約に中国政府は反発、「(関税が実現したら)米国製自動車や航空機に報復措置を取る」とけん制している。トランプ氏も大統領選後は具体的な言及を控えており、公約の実現性は不透明だ。鉄鋼など一部の中国製品は既にアンチダンピング(反不当廉売)関税の対象となっているものの、「すべての中国製品に高い関税をかけるのは、世界貿易機関(WTO)の加盟国としてかなり難しい」(三井物産戦略研究所の山田良平主席研究員)と見る向きは多い。

 ただ、トランプ氏の大統領就任で「チャイナリスク」が高まるのは確実。反日デモや人件費の高騰を受け、多くの製造業は過去数年、「チャイナ・プラス・ワンの動きを進めてきた」(日本総合研究所の菊地秀朗研究員)。ここに「45%関税」という新たなリスクが重なれば、「日系企業のアジア諸国への生産シフトが加速するだろう」(野村証券の和田木哲哉アナリスト)。

 さらに、大統領選後のドル独歩高は、新興国からの資金流出を招いている。ある大手商社は、トランプ氏の政策による新興国の変調が、アジアを中心としたサプライチェーンに及ぶ可能性もあるとして、調査を進めている。