日産自動車のカルロス・ゴーン社長が12月にも三菱自動車の会長に就任する。同時に益子修・会長兼社長が社長としてとどまることも決まり、三菱自動車の社内がざわついている。「(前社長の)相川(哲郎)さんは辞めさせられたのになぜ」(社員)。ゴーン氏の決断は吉と出るか凶と出るか。
会見で2人は「共同購買、生産拠点の共用、新技術の開発分担などでシナジーを創出できる」と強調した
10月20日夕刻、日産自動車のカルロス・ゴーン社長と三菱自動車の益子修・会長兼社長は笑顔で固い握手を交わした。それぞれ、12月に発足する予定の三菱自動車の新経営体制で会長と社長に就くことが内定したためだ。
その光景を、苦々しい思いで見つめる三菱自動車の社員もいた。「益子氏が残るのだけは許せない」。ある三菱自動車社員は言う。
燃費不正問題で社員を処分
大株主の出身者が経営を牛耳る
●三菱自動車の主な新経営陣(候補含む)
前日の19日、三菱自動車の社内では一連の燃費不正問題についての処分が発表された。社員3人が諭旨免職。加えて、「数十人が出勤停止や減給となった」(三菱自動車関係者)。対象者は社内でも伏せられ、「印刷不可」の書面で社員に公開されたという。
厳しい処分を下すのは当然だが、「経営責任を取る」と明言していた益子氏が前言を翻して居残ることに、社内では不信感が強まっている。
益子氏を慰留したのはゴーン氏。その決断は「両刃の剣」でもある。
日産が三菱自動車に出資する狙いは、事業面でのシナジーにある。記者会見でゴーン氏は、「ロー・ハンギング・フルーツ(すぐに回収できる目先の利益)だけで初年度、三菱自動車で250億円、日産自動車で240億円の効果が見込める」と発言した。
三菱自動車の魅力の一つが、東南アジア諸国連合(ASEAN)市場でのブランド力や販売力。例えば、2015年のフィリピン市場での販売シェアは、三菱自動車の14.9%に対して日産は3.4%(マークラインズ調べ)。インドネシアでも三菱自動車のシェアが日産を上回る。「欧米でもシナジーは望めるが、ASEANでの効果は歴然」(ゴーン氏)。
新興国における三菱自動車の強さを支えるのが、三菱商事の販売力だ。これをルノー・日産グループ全体で享受できれば大きなシナジーが計算できる。益子氏が残留すれば、その「保証」ともなり得る。2004年に三菱商事から移籍した益子氏は、三菱商事では「三菱自動車の再建の立役者」と評されている。日産・ルノー連合と、三菱商事を含む三菱グループとの橋渡し役には格好の人物だ。
一方で、リスクになるのが、益子氏と開発・製造部門の間にある「溝」だ。燃費不正問題の前から経営トップに対する現場の不信感は根強かったが、それがさらに深まったのが今年6月の相川哲郎前社長の引責辞任だった。
開発部門出身で生え抜きの相川前社長には、開発部門や製造部門にもファンが多かった。ある社員は「なぜ相川さんだけが辞めるのか。益子さんは日産との提携を実現したら辞めると言っていたから、何とか自分を納得させていた」という。
開発部門で働いた三菱自動車OBはこう漏らす。「社内ではいまだに相川前社長の復帰を願う声がある。益子氏残留に絶望した社員が集団で辞めるようなことにならないといいが…」。
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