働き方改革、TPP承認案・関連法案の国会審議、そしてロシアとの北方領土交渉…。新潟県知事選を受け原子力発電所再稼働も不透明になり、安倍晋三政権は「正念場の秋」を迎えている。一連の課題のキーマンとなる世耕弘成・経済産業相が思いを語った。
(聞き手は 本誌編集長 飯田 展久)
経済産業相兼ロシア経済分野協力担当相
世耕 弘成氏
(写真=的野 弘路)
PROFILE
[せこう・ひろしげ]1962年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、日本電信電話(NTT)へ。報道担当課長などを経て98年の参院和歌山選挙区補選で初当選し、現在4期目。安倍晋三首相の側近として知られ、第2次安倍内閣で官房副長官を務めた。ロシアとのパイプも太い。
問 10月16日投開票の新潟県知事選で、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に慎重で、野党が支援した米山隆一氏が初当選しました。どのように受け止めていますか。
答 新潟県民が選択した結論であり、我々としては真摯に受け止めたいと思っています。個人的に深刻だと思ったのは、出口調査などを見ると、原発再稼働に反対する有権者が非常に多いこと。そして『反対』と答えた人のうちかなりの割合の人が米山さんに投票しています。この現実を重く受け止めないといけません。
新潟の方々が柏崎刈羽原発の再稼働について考える際のポイントは3つあるとみています。まずは原子力規制委員会が安全性を徹底的に厳しい新規制基準で審査していくことです。2つ目は避難計画をはじめ原子力災害が起きた際の対応です。3つ目が東電に対する思いです。柏崎刈羽原発を巡る過去の様々な出来事もあり、特に東電がきちんと改革されていくのかについて新潟県民は気にしていらっしゃいます。
1点目は規制委の仕事になります。2点目の災害対応に関しては、実はこれまで泉田裕彦前知事の意見をかなり取り入れてきました。泉田さんに関係閣僚会議にも出席いただき、彼の考え方を原子力防災にも反映させてきました。この点を新潟県民に伝える努力が少し足りなかったのかなと思っています。
東電については、10月5日に経済産業省に東電の経営改革などを議論する専門委員会を設置し、非連続の改革をやり遂げようという方向で議論をしている最中です。これについても、新潟の皆さんに知ってもらう努力が必要です。米山さんとはお互いの予定が合うタイミングでお会いし、こちらの考えや方針を含めお話しさせていただきたいし、お考えもしっかり伺いたいと考えています。
再稼働へ丁寧な説明を続ける
問 九州電力川内原発の一時停止を公約に掲げた新人が現職を破った7月の鹿児島県知事選に続く「原発慎重派知事」の誕生で、国のエネルギー政策への影響もありそうですね。
答 国民に丁寧な説明を続けていくしかありません。安全の最優先を前提に、世界で最も厳しいレベルである新規制基準に適合すると規制委が判断した原発は再稼働するというのが政府の一貫した方針です。温暖化対策の観点からも原発の再稼働は不可避です。エネルギーコストの面でも、LNG(液化天然ガス)などに頼っている今の状況が日本経済や国民生活にとって持続可能なのかという視点は重要です。
この間、8月に再稼働した四国電力伊方原発を視察してきました。5重、6重もの防護措置が取られていて、福島第1原発の教訓が様々な形で生かされ、日本の原発の安全技術は高まっています。福島第1原発の廃炉・汚染水対策も着実に進んでいます。難しく感じる原発の話を誠実に分かりやすく伝えていく努力をするのが私の仕事かなと思っています。
問 日本経済の現状についてどのように見ていますか。
答 安倍晋三政権のアベノミクスの第1の矢の金融緩和と、第2の矢の機動的な財政出動はうまくいっています。企業は好業績で賃金も3年連続で上がっています。有効求人倍率が47都道府県で1倍を超えました。
第3の矢の成長戦略・構造改革についても農業や医療の改革などそれなりの成果が出てきています。政府の国家戦略特区に選ばれている東京、大阪などの地域は日本全体のGDP(国内総生産)の約6割に達します。これだけの地域で様々な規制緩和が認められている意味は大きいと思います。
ただ、海外投資家も注目し、これを実現しないと第3の矢が完成しないという課題があります。それが働き方改革です。人口減少が進む中で成長していくには一人ひとりの生産性を相当高めていかなければなりません。
これに関連して注目すべきなのが、欧米諸国の半分程度にとどまる日本の開業率と廃業率の低さです。これは、企業や産業の新陳代謝や成長分野などへの労働移動が進んでいない状況を示しています。ずっと低い水準のままの開業率と廃業率を動かしていくためにも労働移動を円滑化していく取り組みが必要です。
もちろん、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現などは重要です。ただ経産相の立場としては、私も加わっている働き方改革実現会議などを通じ、生産性向上や潜在成長率の底上げなど成長につながる働き方改革というものを強く訴えていきたいですね。
問 副業・兼業など柔軟な働き方の推進もカギになりそうですね。
答 その一環として、副業・兼業や企業と雇用契約を結ばないフリーランスとしての働き方などを促す研究会を経産省に設置し、議論していきます。働き手の時間やスキルの活用を可能とし、企業においても多様な人材の確保につながることが期待されます。副業やフリーランスといった働き方の現状の実態と課題について把握し、企業と働き手の契約など望ましい制度のあり方を話し合っていきます。
子育ての合間に女性が働き始めるなど、様々な方々の労働参加が顕著になっています。インターネット経由で企業が発注する仕事を請け負う『クラウドソーシング』などと組み合わせていくことで、労働参加や多様な働き方を一段と後押ししていく。そこに日本経済の成長のチャンスがあるとみています。
野党の反対は根強いですが、労働時間の長さではなく成果に応じて賃金を払う『脱時間給制度』の導入や裁量労働制の拡大など、様々な働き方に対応する法制度の整備も必要です。
問 同一労働同一賃金の実現や労働移動の推進には正社員の待遇を重視してきた日本型雇用システムの見直しが欠かせません。ハードルが高そうですが。
答 業界ごとの事情もあり、そこは産業界とコミュニケーションを取りながら議論を進めていきます。一方で、既存の終身雇用制度の見直しなど、産業界にも変化を求めていきたいですね。
日本企業が社員の仕事のスキルの測定を怠ってきた面は否めません。個人の能力や仕事のスキルへの評価基準などのインフラを作らないといけません。クラウドソーシングの世界ではそうしたメカニズムが生まれ始めています。こうした点も働き方改革実現会議で議論していくべきですね。働き方改革には国民運動も必要です。もっと自由に働きたいといった声を働く側が発信することも期待しています。
まずは経産省から率先して働き方の改革を進めるつもりです。例えば国会待機問題です。来年の通常国会までにはできれば、国会議員の質問を処理するための職員は最小限の実働部隊だけを残し、答弁への対応などは自宅などでのテレワークで処理できるようにしたいと思っています。
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