「小型で安価」が売りだったミラーレス機の単価が上昇、一眼レフを超える機種も珍しくなくなった。一眼レフ2強のキヤノンとニコンは“共食い”を避けるため、高級化路線への対応に出遅れた。欧米ではミラーレスの単価が既に一眼レフを上回る。市場の縮小は続き、消耗戦の様相を呈している。
ソニーの高級ミラーレス機「α7RⅡ」は本体価格のみで40万円を超える(税別、撮影は今年10月上旬)。「ビックロ ビックカメラ新宿東口店」で高級ミラーレスを手に取るのは外国人観光客が多かった(写真=都築 雅人)
デジカメ市場で一眼レフカメラの位置づけが揺れている。「高機能の一眼レフ」と「軽量小型のミラーレス」という垣根がなくなろうとしているからだ。
調査会社のBCN(東京都千代田区)によると、国内市場における一眼レフとミラーレスの平均販売単価の差は、この夏に9400円にまで縮まった。3年前の2013年には一眼レフとミラーレスの単価はそれぞれ8万2100円と5万100円で、価格差は3万2000円あった。一眼レフの単価は下げ止まった観があるが、それ以上にミラーレスの高級化路線が勢いよく進んでいる。
2008年に登場したミラーレスは本体内部の反射鏡を取り除き、レンズから入った光を撮像素子に直接送る機構を持つ。そのため一眼レフよりボディーを小型・軽量にできる長所があるが、AF(オートフォーカス)の速度は遅いなどの短所があった。それがプロ・ハイアマチュア向けで高価格の一眼レフと初心者向けで低価格のミラーレスが市場をすみ分ける要因となっていた。
富士フイルムはプロ向け強化
均衡が崩れるきっかけとなったのは、2013年11月にソニーが投入した「α7」シリーズだ。従来一眼レフ機の専売特許だったフルサイズと呼ばれる大型画像センサーを搭載。この頃からミラーレスの上位機種が一眼レフの入門機の価格を上回り始めた。
オリンパスとソニーがキヤノンを抑える
●ミラーレス機の国内市場シェア(金額ベース)
注:ミラーレスには、ユニット交換型、レンジファインダーを含む 出所:BCN
スマートフォン市場の拡大もデジカメ各社をミラーレスの高級路線へ駆り立てた。JPモルガン証券の森山久史株式調査部長は「スマホ搭載のカメラの進化は著しい。iPhone7の登場で『運動会は一眼レフで』という売り文句さえ危うくなった」と話す。
一眼レフ市場で長らく2強を形成してきたキヤノンとニコンは、既存製品とのカニバリゼーション(共食い)を避けるためしばらくは様子見せざるを得なかった。だが、一眼レフを持っていなかったり、シェアがもともと低かったりするメーカーは、ミラーレスの高級化にちゅうちょなく飛び込める。
その潮流に乗った一社が富士フイルムだ。来春、商業撮影に適したミラーレス機「GFX 50S」を投入する。同機種はフルサイズを上回る中判サイズのセンサーを持ち、広告やファッション雑誌での利用を想定している。9月に発表した想定価格は「標準レンズ付きで1万ドル(約103万円)以下」だ。同じ用途の一眼レフより価格を抑えているものの、ミラーレス機としては強気の価格設定だ。
同社は今春からプロ向けに修理や代替機の貸し出しサービスも始めている。8月のリオデジャネイロ五輪では現地入りしたカメラマン数人に発売直前の「X-T2」を提供した。
富士フイルムの光学・電子映像事業部営業グループの飯田年久・統括マネージャーは「プロ向け製品の市場規模は大きくないし、サポートサービスは手間がかかるので利益は出しにくい。それでも、プロの厳しい目に鍛えられると商品を進化させられる。2020年の東京五輪では2強に割って入りたい」と鼻息が荒い。
迎え撃つキヤノンとニコンの戦略にも、最近になって変化が出てきた。
キヤノンは11月下旬にミラーレスの最上位機種「EOS M5」を発売する。9月の新製品発表会では五輪を想起させるスタジアムでの利用動画を流した。「全力で走る競技者でも捉えられるAF機能の進化を強調したかった」と同社は説明したが、報道陣から「一眼レフとの間でカニバリは起きないのか?」という質問が真っ先に飛んだ。
この点においてキヤノンの方針は明白だ。カメラ事業を率いてきた真栄田雅也社長COO(最高執行責任者)は「(カニバリなど)気にせずミラーレスでも最高級品を作れ。(一眼レフ、ミラーレスを含む)EOSブランド全体でデジカメ市場の1位を目指せ」とハッパをかけてきた。それが11万円強というM5の想定価格に表れている。同社の一眼レフ入門機の2倍以上だ。
キヤノンはミラーレス市場において2012年参入という後発ながら国内シェアは3位まで上がってきた。一方のニコンのミラーレスは低価格が中心のため、金額ベースでは高級機種に力を入れる富士フイルムに抜かれて6位だ。
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