東証による審査にも影響

証券取引等監視委員会の執念が実るか
●東芝の不正会計と規制当局の取り組み

 ところが検察は7月、「立件は困難」との見方を監視委に伝え、起訴を見送る姿勢を示した。東芝は約73億円の課徴金を納付しており、さらに刑事罰を科す必要があるのかという意見も一部では出始めた。

 この状況を打開するために、監視委が証拠とともに反論した格好だ。「これだけの問題を起こしておいて刑事責任を問われず、枕を高くして安眠できる。東芝の粉飾決算をこのまま放置していては、市場に間違ったメッセージが伝わってしまう」。監視委の幹部は、危機感をあらわにこう語る。

 東芝の不正会計が発覚してから、既に1年半が経過した。監視委がなぜ、このタイミングで告発の姿勢を強めているのか。背景には2つの“タイムリミット”がある。

 一つは監視委首脳陣の人事だ。東芝の不正会計を追及してきた、佐渡賢一委員長の任期は今年12月まで。「刑事告発しないまま次の体制が発足すると、うやむやのまま幕引きされかねない」との懸念が、監視委内部に浮上しつつある。残された時間はあと2カ月ほどしかない。

 もう一つは「特設注意市場銘柄」をめぐる動きだ。東芝は9月15日、内部管理体制確認書を東京証券取引所に提出。東証が特注銘柄の指定解除に向けた審査を始めた。解除されなければ最悪の場合、東芝株は上場廃止となる。審査は年内が正念場で、「刑事告発があれば東証はその動きを無視できないだろう」と複数の関係者はみる。審査を通じて市場にメッセージを送りたいなら、監視委は年内に結論を出すことが求められる。

 監視委が執念を燃やす理由は明確だ。東芝の不正を見逃し“暗黙の承認”を与えると、同じ手口で粉飾を試みる企業が続出しかねないからだ。

 特に問題視しているのが、パソコン事業における「バイセル取引」だ。東芝は液晶や半導体など、パソコン製造に必要な部材を安く調達。原価が外部に漏れないよう、一定の「マスキング価格」を上乗せして組み立て業者に卸していた。完成したパソコンは、マスキングによる上乗せを含めて東芝が買い戻す。バイセルは一連の取引を指す。

 東芝はこの取引の盲点を突いた。決算期末に大量の部品を押し込み、一時的に利益を水増ししていたのだ。2012年以降、四半期末月の営業利益は同月の売上高を上回る異常値を示し、利益水増し額の合計は500億円を超える。

 この手法を本格化させたのが、調達担当を経て社長に昇格した田中だ。予算作成などを主導していたことから、粉飾を認識していた疑いがあると監視委は問題視。田中の立件こそが全容解明の糸口になるとみて、慎重に調べを進めてきた。「チャレンジ」と称して無理な業務目標の達成を強要した、西田や佐々木も無縁ではいられない。