EV(電気自動車)の競争は、本格普及を目指す新たなステージに入った。欧米の自動車メーカー各社が、パリモーターショーで相次いで新型EVを発表。航続距離の延長や自動運転技術との融合などで、次世代車の“主流”に名乗りを上げた。
フォルクスワーゲンが発表した次世代型EVのコンセプトカー「I.D.」。2020年に市販を始める
9月29日。パリモーターショーは、独フォルクスワーゲン(VW)の衝撃的な発表で幕を開けた。
「会社の歴史の中で最も大きな変化だ。我々が新しい時代を提供する」──。VW乗用車部門のヘルベルト・ディース取締役会会長はこう語り、次世代型EV(電気自動車)のコンセプトカー「I.D.」を披露した。小型車「ゴルフ」と同程度のサイズで、1度の充電で走れる航続距離は600km。2020年に市販を始める予定だ。
「新たな敵は米アップルや米テスラモーターズ。我々は2025年までに年間100万台のEVを販売し、マーケットリーダーになる。I.D.は(200万~300万円台の)『ゴルフディーゼル』と同じ価格帯になる」
ディース氏がそう語ると、会場は大きな拍手に包まれた。排ガスの不正問題がいまだにくすぶるVWは今年6月、2025年までに30車種のEVを投入すると発表。I.D.はその第1弾となる。将来的には世界販売に占めるEVの比率を25%に高める計画だ。
ダイムラーは電池の増産へ
ダイムラーは新ブランド「EQ」で2025年までに10車種のEVを投入すると発表した
ショーで人だまりを作ったもう一つの会見が独ダイムラー。「業界はEVに真剣に取り組む時期を決めかねていた。我々はその逆だ」。ジーンズ姿で壇上に立ったディーター・ツェッチェ社長は「EVシフト」を高らかに宣言した。
ダイムラーはEV専用の新ブランド「EQ」と、2025年までに10車種を投入する計画を発表。ツェッチェ社長は最初に投入するSUV(多目的スポーツ車)について「3年程度でリーズナブルな価格で発売する」と明かした。
航続距離は500km。ダイムラーは電池の開発に10億ユーロを投資する計画を掲げ、うち5億ユーロを独カメンツに持つ電池工場の拡張に充てる。
欧州メーカーが一斉にEVを発表した背景には主に3つの要因がある。
まず環境規制への対応。欧州連合(EU)は2021年から、二酸化炭素の排出量を走行距離1km当たり95gとする規制を導入。欧州メーカーの主戦場、中国でも2020年に同排出量を2015年比で約3割低減する規制が始まる。
次が「対テスラ」。「テスラの取り組みは参考にしている」(ダイムラー開発トップのトマス・ヴェーバー取締役)。「当然、テスラを競争相手として見ている」(VWブランドの営業・マーケティング担当のユルゲン・シュタックマン取締役)。こうした発言のように、2017年末ごろに発売予定の小型EV「モデル3」で、40万台程度の予約を集めたテスラへの強い対抗意識がある。
最後に、自動運転技術との融合という戦略的な狙いもある。
VWは同社初となる完全自動運転技術をI.D.に搭載する予定。VWブランドの開発トップ、フランク・ヴェルシュ取締役は本誌などに対し、「市販できるかどうかは規制次第だが、技術的には2020年までに準備する。自動運転技術はEV用のプラットフォーム(車台)に搭載する」と明かした。一方、電動車両以外では「レベル3が限界」(ヴェルシュ取締役)としており、当面はレベル4の自動運転技術の搭載を見送る。
モーターのみで動くEVは高精度な電子制御が可能で、応答性を高めやすい。エンジンがない分、各種センサーやECU(電子制御装置)などを置く空間的な余裕が生まれることも、自動運転との親和性が高い理由の一つだ。
ダイムラーのツェッチェ社長が繰り返したのが、「CASE」というキーワード。コネクティビティー(接続性)の「C」、オートノマス(自動運転)の「A」、シェアリング(共有)の「S」、エレクトリック(電動化)の「E」を組み合わせた造語だ。ツェッチェ社長は「CASEは業界を一変させる力を持つ。大切なのは、この4つを包括的に提供するパッケージ。(新ブランド『EQ』は)CASEにのっとったビジネスを展開する」と強調した。
先行するHVをEVとPHVが追う
●次世代環境車の市場予測
出所:富士経済
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