トランプ米大統領の「制裁」発言から通貨リラが対ドルで急落、トルコ経済が混乱している。自動車販売店では連日のように値上げ。現地生産するトヨタ自動車も対応に苦慮する。エルドアン大統領は強気の姿勢を貫くが、さらなる混乱は他の新興国不安に火をつけかねない。

<span class="fontBold">トヨタ自動車はトルコを重要拠点と位置付けてきた</span>
トヨタ自動車はトルコを重要拠点と位置付けてきた

 「買うなら値上げ前の今だよ」

 8月17日、トルコ最大の都市イスタンブールでトヨタ自動車の販売店を訪れると営業マンが熱心に購入を勧めてきた。日本では「ヴィッツ」として知られる小型車「ヤリス」。価格は9万8850リラ(約180万円)だ。営業マンによると9月1日に値上げするという。この販売店では値上げラッシュが続いている。3日前まで14万リラだったワンランク上の「カローラ」は、この日15万3500リラ。10%もの値上げだ。主な原因は、通貨リラの急落で海外から調達している主要部品が値上がりするためだ。

 トルコ経済の混乱が世界を揺るがしている。始まりは「トランプ砲」だった。7月26日、スパイ容疑で米国人牧師を拘束しているトルコ政府に対し、「大規模な制裁措置を発動する。直ちに解放しろ!」とツイッターに投稿。8月1日にトルコ閣僚の資産凍結などの制裁を実行した。さらに10日にはトルコ製の鉄鋼・アルミニウムの輸入関税を大幅に引き上げると発表し、リラ安に拍車がかかった。12日には1ドル=7.2リラという史上最安値をつけ、年初からの下落幅は約4割に達した。

 自国通貨が急落した場合、利上げで通貨防衛を図るのが一般的だが、トルコのエルドアン大統領は、「金利は貧しい者をより貧しく、豊かな者をより豊かにする搾取の道具」として、景気を冷やす利上げに反対している。

 迷走するトルコ経済。なかでも深い傷を負いそうなのが、自動車産業だ。トルコにはトヨタ自動車のほかホンダやいすゞ自動車も拠点を構えており、日本企業にとっても影響が出かねない。

 トルコの人口は約8000万人。2017年の生産台数は169万台と過去最高を更新し、輸入車を含む国内販売は98万台と10年前に比べて約5割増加している。米フォード・モーターや仏ルノーなども生産拠点を構える。

 年間133万台(17年)とトルコ経済にとって重要な輸出への影響も深刻だ。17年の全工業部門の輸出額ランキングでは、トヨタはフォードに次ぐ2位。欧州向けの小型SUV(多目的スポーツ車)の「C-HR」が伸び、17年の輸出台数は16年に比べて2.3倍の24万6000台に達した。主力セダン「シビック」を生産するホンダも欧州各国などに輸出している。本来、自国通貨安は輸出競争力を高めるが、付加価値の高い主力部品を輸入に頼るトルコの場合、調達コストの上昇がまず直撃する。

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