性悪説より性善説で
人繰りには常にゆとりを
伊那食品工業 塚越 寛会長
(写真=陶山 勉)

 社員が安心して子育てのできる会社をつくりたい。そう考えてきたからか、当社には複数の子を持つ親が多く働いています。約450人の正社員のうち半数が子持ちで、うち3人以上の子を持つ親が約50人もいます。

 大企業のように明確な「子育て支援制度」を設けているわけではありません。それでも社員が積極的に子供を産んで育児に励んでくれるのは、社員を含めた全てのステークホルダーの「幸せ(ハピネス)」を最優先させた経営をしてきたからだと思います。

 社員のハピネスを考えたら、社員が安心して子育てのできる環境を経営者が整えるのは当然のこと。ところが、いざ実践しようとすると容易ではありません。人繰りや業績に常にゆとりを持たせなければならないからです。

 常に余裕を持った経営をするためには「社員一人ひとりの生産性を上げること」が必要になります。この点は当社も同じですが、それを実現するまでの道筋や考え方が異なります。

 一般的な会社では、会社の利益を拡大すべく、上司が部下に「経費の無駄遣いをするな」と管理したり、「短い時間でこれまで以上の成果を上げろ」などと鼓舞したりします。しかし一方的に言われるだけの社員からすれば「なぜそんなことをしなければならないのか。会社は自分たちのことを大事にしてくれていない」と、逆にモチベーションが下がってしまいます。

雇用増で育休から復帰しやすく

 私は企業経営では性悪説より性善説で全ての物事を考えるべきだと思います。社員には「子供ができたらちゃんと休みを取って、復帰したかったらいつでも戻ってきなさい」と伝えるようにしています。そうすれば、復帰後の社員は以前の2倍も3倍も働いてくれます。経営者が社員を思いやり、信頼すれば、社員は応えてくれるものなのです。

 もちろん、経営側の努力も必要です。社員がいつでも戻ってこられるように当社では、主力の寒天製品の直販店やレストランを経営しています。メーカーの当社にとって直販店は必ずしも必要ではありません。しかし販売店は雇用を少しずつでも増やすために欠かせない職場だと考えています。

 樹木が年輪を重ねるように会社も社員と一緒に少しずつ成長していく。私は「年輪経営」と称していますが、これこそが、社員が同じ会社に勤め続けられる条件だと思うのです。(談)