2053年に人口が1億人割れする見通しとなり、労働力の確保がさらに重要となる。出産、子育てを契機に職場を去る必要のない環境をいかにして整備するか。働き方改革に関心が高まる中、先んじて女性の働きやすさを追求してきた2人の経営者に話を聞いた。

制度の前に価値観醸成
子育て後の新卒入社も
ユニ・チャーム 高原豪久社長
(写真=大槻 純一)
(写真=大槻 純一)

 少子化を最小限に食い止めるために企業ができることは主に2つに分けられると思います。

 1つ目は価値観の醸成です。結婚する、子供を産む、育てるといった人生の営みが素晴らしいものなのだと積極的に発信するのです。最近、ようやくこうした機運が高まってきた気がします。企業のみならず国も含めて取り組まなければならないことです。

 なぜそのようなことをするのか。今の日本では結婚や子供を持つことが自分の人生の選択肢に入っていない人が増えているからです。そもそもその価値観を変えない限り、いくら子育ての支援制度を作っても少子化の流れはあまり大きく変わらないでしょう。

 企業にもやれることはたくさんあるはずです。自社の製品やサービスの製造・販売を通じてメッセージを発信できます。ユニ・チャームなら紙おむつを通じて育児をより安心・安全に快適に行えることを伝えられます。

 もう一つは働き方の見直しです。働き方改革の本質的な目的は仕事を通じて理想の自分に近づいていくことだと思います。従業員がどんな人生を選んでも「自己実現」に向かえるように多様な働き方をサポートするのは企業の役割でもあるはずです。

 ユニ・チャームではそのための選択肢を増やしています。例えば、新卒女性を対象に、採用選考に合格すれば、最長で30歳になるまで内定資格を保有できる制度を作りました。30歳までに妊娠・出産を終え、子育てが一段落してから入社し、働き始めるといったことを可能にしたのです。妊娠・出産以外でも配偶者などパートナーの転勤でそのまま仕事を続けるのが難しくなることもあります。いったん辞めたとしてもまた会社に戻れる「キャリアリカバー制度」も作りました。

 日本人の平均寿命は延びています。いずれ男性85歳、女性90歳となる時代が来るかもしれません。様々なキャリアパスを企業が用意することは、出産・育児支援のためだけでなく、定年延長を視野に入れた長い就業人生においてもメリットになると考えています。

持ち家奨励など経済的支援も

 若年層への経済的な支援も必要でしょう。今年の賃上げでは若手を中心にベースアップを実施しました。持ち家奨励制度を設け、住宅ローンの一部を補助しています。おかげで、家を購入した30代社員が増えました。

 多様な働き方の支援は、社員が結婚・出産について自然に考えられる状況を作り出す効果が狙えます。就職活動中の学生と話をすると、結婚や子供を持つことは、適齢期になれば自然にできると考えている。しかし実際は、キャリア形成の過程で実現が難しくなることも多い。自分が描く将来を自然に実現できるようにしたいのです。(談)

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