旧態依然とした働き方が残る不動産業界にあって、残業を極小化する効率経営で成長を続ける新興企業。集客に商談、物件管理までこなす専用アプリや、業務を「見える化」する社内システムを内製する。ムダを徹底排除するトップの姿勢と積極的なIT投資で、独自のビジネスモデルを構築している。

<b>創業者の古木大咲社長。夕方5時以降に会社にいることはほとんどないという</b>(写真=陶山 勉)
創業者の古木大咲社長。夕方5時以降に会社にいることはほとんどないという(写真=陶山 勉)
営業利益率は10%前後
●インベスターズクラウドの業績
営業利益率は10%前後<br /> <span>●インベスターズクラウドの業績</span>
注:2016年12月期途中より連結決算に移行
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 労働時間削減と成長をどう両立させるか。今、あらゆる企業が背負っている課題だ。

 参考にすべきは大企業の先行事例だけではない。効率的な経営で成長する新興企業にも学ぶことがある。2015年12月に東京証券取引所マザーズに上場し、16年に東証1部に市場変更したインベスターズクラウドはその一社だ。

 06年創業の同社の主力はアパート事業。自社では土地や建物を持たず、顧客への土地の紹介から建築、完成後の賃貸管理を手掛ける。16年12月期の業績は売上高が前年同期比76%増の379億円で、営業利益は同100%増の38億円。今期は売上高505億円(同33%増)、営業利益54億円(同41%増)を見込む。

1人当たり年間12棟を売る

 16年、同社が成約したアパートは687棟で、「コンシェルジュ」と呼ぶ営業担当者は57人。1人当たり年間平均12棟を売った計算になる。同業他社では1人年間数棟で「合格」とされることを考えれば、驚異的な数字だ。

 一般的に不動産業界は休日勤務が多く、平日も営業や商談が夕方以降になるため長時間残業になりやすい。インベスターズクラウドの全社の残業時間は月間15時間で、同業界の平均とされる40時間前後の半分以下。有給休暇の消化率も63%(いずれも16年実績)と高い。

 創業者の古木大咲社長は「現場が働きやすくするために、ムダな仕事を減らすことを考えてきた。社員は残業するよりも、どんどん外に出て視野を広げてほしい」と話す。

 同社のビジネスモデルの最大の特徴は、顧客とのやり取りをスマートフォンやタブレットのアプリケーションに集約している点にある。顧客はまず専用アプリ「TATERU(タテル)」をダウンロードし、会員登録する。アプリにずらりと並ぶコンシェルジュから自分の担当者を選ぶと、商談が始まる。

 主な顧客は40~50代のビジネスパーソン。年収1000万円以上の富裕層で、「不動産会社の営業に会いたくないお客様が大半」(古木社長)という。アプリを使い、チャットやウェブ会議で商談を進めることも多い。不動産の営業でありがちな土地所有者への飛び込み訪問やセールス電話はしないため、長時間残業になりにくい。

 コアタイムなしのフレックス制度で、週40時間以上をクリアすればいつ働いてもいい。東京・南青山の本社で働くコンシェルジュの荒瀬朋之さん(33)の場合、通常は午前8時30分ごろに出社する。

 午前中は銀行とのやり取りやメールの返信などに集中し、午後は問い合わせがあった顧客への返答や社内の会議に使う。午後5時半には仕事を終え、帰宅して家族と過ごしたり、社内のクラブ活動で汗を流したりするという。

 顧客は会員登録段階で資金や投資目的などの情報を入力するため、「無駄なやり取りを省いてすぐに商談に入れる」と言う荒瀬さん。前職も不動産の営業で、長時間残業が慢性化していたが、今は残業は月に10時間程度だという。

2月の残業時間は約10時間
●コンシェルジュ・荒瀬朋之さんの1日のイメージ
2月の残業時間は約10時間<br /> <span>●コンシェルジュ・荒瀬朋之さんの1日のイメージ</span>

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