中間管理職も大西氏から離反

 「大西社長は、私以上に販売現場を大切にする気持ちがあり、売り場も熟知していた」。都内店舗のある幹部がこう話すように、現場の若手などから声を吸い上げようという意識は強かった。だが一方で、停滞する社内の改革を急ぐあまり、会社の屋台骨を支える中間管理職との距離が広がっていく。

 「若手社員からは支持を得ていたが、中間管理職を非難しすぎていた」と、ある中堅社員は語る。三越と伊勢丹という、ともに歴史ある会社が統合した経緯もあって、役職が多層に重なる重たい組織構造がある。大西社長は風穴を開けようと、社長が直接指揮できる領域を広げる組織改革にも着手していた。だがその一方で、存在意義を問われる中間管理職が疎外感を強めた。

 もうひとつ大西社長が、改革のスピードを上げるために進めた施策が、新規事業や他社との提携に際して、別会社を作ることだ。本社の官僚的な組織は決定に時間がかかり、思い切った手を打てないという焦りがあった。

 例えば、外部との提携で立ち上げた婚礼事業や外食事業などの会社を、次々と設立した。ベンチャー企業のようなスピード感で事業を拡大したい思いがあった。

 こうした動きに、反発する声も漏れてきた。象徴的なのは、2015年秋に提携に合意したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との取り組み。16年4月に共同で顧客マーケティング会社を設立し、5月からCCCのTポイントサービスを三越伊勢丹に取り入れた。大西社長とCCCの増田宗昭CEO(最高経営責任者)が意気投合したことが提携を後押しした。

 だが三越伊勢丹にとって、顧客特性が違うTポイントとの連携に、どれほどメリットがあるのかと、懸念する見方もある。大西社長は単なるポイント連携にとどまらず、例えばCCCが大阪府枚方市で展開する新たな商業施設「枚方T-SITE」のノウハウを、自社の地方・郊外店舗の再生に生かせると見た。だがこれも社内の反応は鈍かったようだ。「現場の動きが足りない」と、大西社長は昨年秋に話していた。

大西洋社長(左)は、事実上の更迭となり、杉江俊彦取締役専務執行役員(右)に社長の座を譲ることとなった(写真=2点:北山 宏一)

 石塚会長は6月の株主総会で退任する予定。新体制は杉江新社長の考えが色濃く反映されることになる。杉江氏は13日の記者会見で、成長事業の育成よりも「まずは構造改革を優先したい」と述べた。経営戦略本部長である杉江氏が、大西社長の急速な多角化路線と距離を置く姿勢がにじむ。

 組織風土の刷新や新事業の育成など、大西社長の改革のメニューは一朝一夕に利益につながらないものも多い。「ロマンを求める大西氏の姿勢は、数値の目標管理を重視する経営戦略本部との溝を深め、最後は折り合いをつけられなくなった」。ある中堅幹部は、今回の退任劇の背景を解説する。

 ただ、百貨店という業態を再生させる改革の旗手として、社内外から大西社長への期待が高かったのも事実だ。「百貨店を変えるというチャレンジ精神を評価していた」(SMBC日興証券の金森都シニアアナリスト)。各社が横並びだったセールの時期を遅らせるなど、業界の商習慣の是正にも動いた。

若手の力で百貨店を変えたい

 年明けの初売りを遅らせて1月3日からにしたり、営業時間を短縮したりと、従業員の働きやすさに配慮した施策も相次ぎ打ち出していた。業界の古い“常識”を疑い、新たな「百貨店像」を模索していたことは確かだ。若手社員を重視したのは、百貨店の常識に染まらない従業員の力で、百貨店を変えていきたいという意思の表れだったともいえる。だが、業績が下降線をたどる局面では、利益確保の要請が当然、高まる。大西社長の立場は微妙なものになっていった。

 三越伊勢丹HDの17年3月期の業績は大きく落ち込む見通しだ。売上高が前年同期比2.9%減の1兆2500億円、営業利益は同27.5%減の240億円の予想だ。18年度に営業利益500億円としていた目標を、延期せざるを得なくなった。

業績面で苦戦が鮮明になってきた
●三越伊勢丹HDの売上高、営業利益の推移
(写真=武藤氏:時事、石塚氏:的野 弘路、大西氏・杉江氏:北山 宏一)

 ライバルの大手百貨店と比べても劣勢だ。17年2月期の営業利益予想でみると、大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ.フロントリテイリングは、前の期比6.3%減。高島屋は同3.1%増を見込む。これに対して、三越伊勢丹が約3割減と苦戦しているのは、SC(ショッピングセンター)など百貨店以外の事業が少ないことが要因だが、それだけではない。百貨店事業だけで比べてみても、他社よりも収益性が低いのだ。

 深刻なのは、最大の強みであるはずの東京都心の旗艦3店の低迷だ。特に伊勢丹新宿本店の売上高は、16年4月から17年2月まで11カ月の累計で前年同期比3.1%の減少。3月までの12カ月累計で8.7%増としていた当初予想とはかけ離れた数字だ。

 12年から開始した新宿本店の改装は、約90億円を投資して13年にかけて実施した。婦人衣料など売り場構成を抜本的に見直し、ブランド別ではなく伊勢丹の視点で自主編集する売り場を拡充した。新進気鋭のデザイナーやブランドも積極的に導入するなど「ファッションの伊勢丹」のイメージを改めて発信するものだった。大西社長は03年、新宿本店に併設して「メンズ館」を開業したプロジェクトで活躍した実績があるだけに、本店改装には強い思い入れがあった。

 改装は、ファッション好きの消費者や業界内で高く評価される一方で、「今の日本の市況と合っているのか」(大手百貨店のMD統括部長)という冷めた声も次第に広がっていった。折しも、14年4月の消費増税が間近に控えていた。その後、消費者の財布のひもは固くなる一方で、高額で最先端のファッションを追求した売り場作りが裏目に出た面がある。「消費者の数歩先というレベルではなくて、少し行き過ぎなのでは」(同)との見方も出てきた。

 2015~16年以降、大手アパレルの業績不振が鮮明になり、百貨店への商品供給を絞るようになった。影響を大きく受けたのは、郊外や地方の店舗だ。大西社長は昨年秋、日経ビジネスのインタビューで「業界は悪循環に陥っている。店舗に商品が回ってこない」と厳しい認識を示していた。代わりに力を入れたのが、独自ブランド品の開発だ。アパレル依存からの脱却を目指す大西社長が「仕入れ構造改革」と呼ぶ、重要施策だった。だが衣料品は振るわず、昨年夏ごろから業界内では「伊勢丹の過剰在庫が相当な水準まできている」とささやかれるようになっていた。