百貨店業界の盟主、三越伊勢丹HDで起こった、混乱の末のトップ交代。改革の旗手とされた大西洋社長だったが、社内の権力基盤はあまりに弱かった。他の商業施設やネット通販など外敵と戦う以前に、伝統の組織が自壊していく恐れがある。

(写真=的野 弘路)

 「私は今後、『対話』を最も重視した経営を行いたいと思います。経営の内部、経営と従業員、労使間などの『対話』を充実させたいと考えます」

 3月7日の朝10時半から、東京都新宿区の三越伊勢丹ホールディングス(HD)本社8階、役員会議室で開かれた労働組合との「臨時経営懇話会」。4月から新社長に昇格する杉江俊彦取締役専務執行役員の声が響いた。

 同じ7日朝の取締役会で、大西洋社長の事実上の更迭と、杉江氏の昇格が決まったばかり。直後の懇話会には、大西社長を除く、すべての社内取締役4人が出席した。労組側からは10人ほどが出席。「臨時」の会合とはいえ、労使一体で周到にお膳立てした様子がうかがえる。

 飯沼寿也三越伊勢丹グループ労働組合本部執行委員長は新経営体制に対して、「生き生きと働くことができ、ハラスメントなどがない職場風土の構築」「コンプライアンスを重視し透明性のある経営体制」「長期的な従業員の幸せ」などを要望した。雇用安定を前提に「新経営陣を全面的に支持する」とも述べ、蜜月ぶりが際立った。労組と経営陣による「大西包囲網」が、いかに強固になっていたかを示すものだ。

会長が労組と膝詰め協議

 労組と大西社長の間で、火種がくすぶるきっかけとなったのは、昨年11月8日の決算発表だ。記者会見で大西社長は、苦戦する郊外・地方店について閉鎖も選択肢として抜本的に改革すると公表した。記者から具体的な名前を聞かれた大西社長は、臆することなく店名を口にした。千葉県松戸市と東京都府中市にある伊勢丹、愛媛県松山市と広島市にある三越の店舗だ。

 「社内での具体的な決定事項はなく、閉鎖ありきではない」と、付け足したが、メディアに具体的な店名が出たことで取引先などが動揺した。年明けも札幌市や新潟市の店舗でのリストラを示唆する報道が続く。

 「報道によって、現場が混乱しています」。1月に開かれた経営懇話会。組合から厳しい声が上がった。石塚邦雄会長や大西社長が参加する定期的な会合だが、この時、労組から経営陣を問いただすような訴えが出たのだ。

 動揺は収まらなかった。2月、組合員に配られた春の労使交渉に向けた議案書。そこには経営陣を批判する内容が盛り込まれた。「11月以降の経営陣の発言で、現場が混乱している」。石塚会長は、労組の訴えに危機感を持ち、飯沼労組委員長に会談を申し込んだ。「詳しい内容を聞かせてほしい。意見があれば、言ってほしい」。2人は膝詰めで話し合った。

 社内の反大西ムードは、ひとつの流れになり、3月4日、石塚会長が大西社長と面会。最終的には大西社長が石塚会長へ辞表を手渡した。三越出身の石塚会長と伊勢丹出身の大西社長との間で起きた、「伊勢丹」対「三越」の構図に見えなくもないが、そう単純ではない。伊勢丹出身者が多い経営陣の内部でも大西社長への不満がくすぶっていた。ある経営幹部によると、大西社長は取締役2人を前に、「連携が悪い」と叱責したこともあったという。

 13日、次期社長として記者会見に登場した杉江氏は、大西社長について「社内での対話、コミュニケーションが不足していた」と述べた。取締役会内部で溝が深まっていたのは明らかだ。「社外でいい顔をしながら、社内に戻れば事業の不振を、全て部下たちのせいにするのか。大西社長について、不満をもつ幹部は少なくなかった」。ある経営幹部は、そう打ち明ける。