値上げの効果は限定的だった
こうした状況の中で、ヤマトの経営陣は、深いジレンマに陥っている。というのは、3年前に値上げをしたものの、十分な成果を上げてこられなかったからだ。
2010年以降、宅配便の取扱個数は増える一方で、ヤマトの宅配便の平均単価と営業利益率が、同じように下がり続けてきた。2013年3月期には平均単価が600円を割り、翌期には営業利益率が5%を下回った。下落基調を反転させるために、同社は2015年3月期に大口顧客を対象に一斉値上げに踏み切る。その結果、同期の宅配便の平均単価と営業利益率はいずれも上向いた。
だが、この値上げは根本的な解決にはならなかった。物流会社間での競争は激化し、再び下落基調に入る。単価下落に拍車がかかり、2017年3月期の営業利益率は、ついに4%を下回る見込みだ。こうした状況を打破するためには、3年前を上回る規模の値上げが必要だが、それは日本郵便などに顧客を奪われかねないもろ刃の剣でもある。
アマゾンは悪者なのか
ヤマトを中心とする物流会社の労働負荷が強まる中、宅配個数を急増させているネット通販会社への批判が強まっている。「近所で手軽に買えるような品物までネットで注文し、宅配ドライバーの負荷が高まっている」「『送料無料』と宣伝し、追加料金をとらないことが、再配達を増加させる原因となっている」などだ。2月22日、日本記者クラブの会見に出席したアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長には、宅配の窮状について記者からこうした声を代弁する質問が飛んだ。
それに対して、チャン社長の回答は想定の範囲内だった。「宅配業者と緊密に連携している。イノベーションで解決するための投資をしていきたい」。あくまで物流会社との契約で決めるという立場で、新たな抜本策を講じる姿勢は示さなかった。
ヤマト関係者は「アマゾンとは毎年、料金の交渉をしている」と話すが、単価の下落基調を覆すまでには至っていない。現場の作業負荷の増大や、単価の下落を招いてきたのは、ヤマト自身の経営判断の結果でもある。
シェアか利益か、消費者の利便性向上か社員の負荷低減か──ヤマトはどちらを選択するのか。すべてを満足させる解はなく、中途半端な判断を下せば、今の構図に早晩戻ってしまうだろう。宅配便で5割近いシェアを築いた同社のビジネスモデルが岐路に立っている。
(大西 孝弘)
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