日本の電機メーカーを圧倒して快進撃を続けてきたサムスン電子の実質トップが贈賄容疑で逮捕された。中長期的な意思決定の遅れに加えて、スマートフォンやテレビなどの主力事業にも黄信号がともっている。足元の業績は好調だが、グループを束ねる総帥の不在は韓国最大の企業の先行きに暗い影を落としている。

両手を縛られたまま、特別検察の建物に連行されるサムスン電子のイ・ジェヨン副会長(写真=Bloomberg/Getty Images)

 青い護送車両から連れ出された男性は両手を前で縛られ、両脇を2人の警務官に固められながら尋問のために特別検察の建物へと連行されていった。

 2017年2月17日、韓国サムスン電子の事実上のトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が贈賄容疑で逮捕された。1月に逮捕状が請求された際はいったん逮捕が見送られたが、今回は受理された。サムスングループの創業から79年で創業家出身のトップが逮捕されるのは初めて。グループ内の企業合併を支援してもらうために朴槿恵(パク・クネ)大統領の親友に40億円以上の賄賂を贈ったという疑惑が深まったためだ。李副会長は連日、特別検察の取り調べを受けている。

 サムスン電子は韓国最大の企業で、2016年12月期の売上高は前期比微増の約202兆ウォン(約20兆円)、営業利益は同11%増の約29兆ウォン(約2兆9000億円)。利益ではトヨタ自動車を凌駕する。2017年1月末時点の株式時価総額でも、サムスン電子は2390億ドル(約26兆8500万円)と、日本で首位のトヨタを36%上回る。

 李副会長が逮捕された17日。韓国・水原(スウォン)市にあるサムスン電子の本社には、緊張感が漂っていた。異例の現役トップの逮捕。「会社から何かメッセージはあるのか」と社員が気にする中、「大したことありません。皆さん動揺していると思いますが、会社を信じて最善を尽くしてください」といった短いメッセージが社内ネットに掲示された。

長期戦略が決められない

 「部長級の人事異動は2月末に出るが、昨年12月に発表される予定だった 役員人事は5月に延期になった」。サムスン電子のある社員は明かす。「今は目の前のビジネスをこなすだけだが、この先どうなるか分からない」と嘆く。

 トップダウンの経営力が強みとされてきたが、2014年に急性心筋梗塞で倒れた李健熙(イ・ゴンヒ)会長から長男の李副会長に経営の主導権が移ってからは、現場への権限委譲を進めてきた。各事業部のトップに細かい事業方針の決定権を委ねているため、トップ不在となっても「短期的なビジネスに大きな影響はない」(日本総合研究所の向山英彦上席主任研究員)との見方が多い。

 しかし、李副会長の不在が長引けば経営への影響は避けられない。サムスンは現在、半導体に次ぐ新たなBtoB(企業間取引)事業の立ち上げに力を入れている。中でも、自動車関連市場への関心は高い。昨年11月の米自動車部品大手ハーマン・インターナショナルの買収も、李副会長の肝いり案件だった。「自動車、バイオなどの新規事業をどう成長させていくのか。長期的な戦略の決定は先延ばしになるだろう」 (向山研究員)。