態度を豹変させたSDP

 まずはサムスンが仲裁を申し立てるに至った経緯を整理しよう。サムスンは、鴻海とシャープが共同運営する「堺ディスプレイプロダクト(SDP)」(堺市)から液晶テレビパネルを調達していた。40インチ前後の中型サイズと、60、70インチの大型サイズなど約370万台分(2016年)を引き受ける、最大顧客だったもよう。

 「買収が取引関係に影響を与えることはありません」

 「今後も高品質の製品を提供します」

 鴻海によるシャープ買収が明らかになった後の昨年5月16日、SDPはサムスンにこのような文書を送付。両社はその後、取引範囲の拡大について話し合いを進めていた。

 だが、そんな良好な関係が突然、終わりを迎えることになる。

 昨年11月29日に開かれたSDPとサムスンの幹部らが集まった会議で、SDP側が「(鴻海の)郭台銘董事長は世界的にブランド力を高める考えで、当社のパネルは全て鴻海・シャープに渡すことが決まった」などと説明。12月末でサムスン向けのパネル供給を全て止めると一方的に通告したのだ。

 仲裁申立書には、鴻海がSDPのパネルを市場価格よりも5割高い価格で購入すると約束したといった趣旨のことも書かれている。

 調査会社によると40インチのパネル市場価格は2016年12月時点で140~155ドル。60、70インチの大型サイズは400ドル前後だ。「市場価格の5割増し」がそのまま利益となれば、単純計算でSDPには年500億円以上の利益の押し上げ効果が見込める。

 シャープのSDP持ち株比率は26.7%。鴻海が実勢と乖離した価格でパネル全量を買い取ることで、シャープの「名目」の業績は年130億円以上改善することになる。戴社長の自信の裏にはこんなカラクリが隠されていた。

 では、鴻海は高値で集めたパネルをどうするつもりなのか。

 そのヒントが昨年11月11日の「独身の日」にあった。

 中国のEC(電子商取引)の売り上げが1年で最も伸びるこの日。阿里巴巴集団(アリババグループ)の通販サイト「天猫(Tモール)」では、70インチと60インチのシャープのテレビ「アクオス」の商品画像が大きく掲載された。