小雨が降る中、現実路線への修正を期待する声を打ち消すように、トランプ新大統領は約16分、熱弁を振るった。自国の産業や労働者を犠牲に、外国の繁栄を支援してきたと指摘。それを全て、「米国第一主義」に転換する。この“歴史的”な演説を、経営者・専門家はどう聞いたのか。7つの注目発言から「トランプ演説」を読み解く。

1月20日(米国時間)、ドナルド・トランプ氏は第45代米国大統領に就任した(写真=©UPI/amanaimages)
トランプ大統領の6つの重要政策課題
注:大統領就任後、米ホワイトハウスのウェブサイトに掲載された内容から抜粋

 英語では「It’s going to be only America First, America First」と2度、繰り返していたのが気になった。今回の演説では特段、新しい発見はなかったが、注意するとすれば、トランプ大統領の「保護主義」の行く先だ。

 就任直後に、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱とNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉の実施を明らかにした。米国がTPPから離脱すれば、今までの議論がご破算になり、日本企業の多くが描いていた理想からは離れる。だがTPPはこれまでも存在していなかったため、ご破算になっても現状維持で済む。問題はNAFTAだ。再交渉の内容が現時点では見えないため、今後も注視していく。

林田英治氏
JFEホールディングス社長(写真=的野 弘路)

 最悪のシナリオは、トランプ大統領の保護主義が世界の国々に波及していくことだ。米国だけならまだしも、欧州など他の国々も保護主義の政策を取るようになると日本企業の打撃になる。輸出が世界規模で減るからだ。

 当社で言えば、日本で生産する鉄鋼の約40%を海外に輸出している。東南アジア諸国連合(ASEAN)などは現地で生産している鉄鋼が少ないのでいいが、他の国々では現地の鉄鋼メーカーが圧倒的に有利になる。この現象は鉄鋼業界だけではなく、あらゆる業界で起こるだろう。

 トランプ大統領は演説の中で、こうも言っていた。「政治の根底に置くのは、米国への完全なる忠誠だ」。米国民に向けた言葉ではあるが、少しうがった見方をすれば、世界の全ての人たちに向けているようにも聞こえる。全体を通じて平易な英語を使い、主語に「We(私たち)」という言葉を多用している点も気になった。私が数えたところ、「I(私)」を使ったのはたったの3回。選挙がまだ続いているかのような、大衆に訴えかける演説に聞こえた。

 とはいえ、トランプ大統領が行き過ぎた方針を取れば、米国内で何らかの抑制力が働くだろう。だから現時点で方針を変えるつもりはない。これまでやってきたことを継続するのみだ。


 就任演説だけでは具体策が見えてこなかったが、ホワイトハウスのウェブサイトに掲載されていた基本方針を読んで初めて、トランプ政権の方向性が見えてきた。当社だけのことを考えれば、新政権の方針は大歓迎だ。

 基本方針には、米国内の雇用増と経済成長の促進を図るため、所得税や法人税の税率を下げると書かれていた。当社はちょうど、約140億円を投資してアラバマ州に工場を新設し、今月から一部を稼働させたばかりだ。自動車部品を作る我々にとって、完成車生産の米国シフトは新工場の稼働率を上げることにつながる。米国の経済が上向けば、クルマの消費も増えるので喜ばしい。新政権の誕生は当社にとって最高のタイミングだ。

志藤昭彦氏
ヨロズ会長 兼最高経営責任者 日本自動車部品工業会会長

 メキシコにも生産拠点が2つあるが、全体の売り上げからすれば12~13%。このうち米国に輸出されているのは完成車で半数(6%)くらいで、全体に及ぼす影響は軽微だ。しかも現在、ドルとペソではドルが圧倒的に強い。米国工場の稼働率が上がった方が売り上げ全体への貢献度が高くなる。

 メキシコへの風当たりの強さを懸念する声を聞く。だが、弊社だけでなく自動車業界全体にとっても、それほど影響はないと見ている。メキシコから米国に輸出しているクルマの台数が多いのは日系よりむしろ米国のメーカー。保護主義が行き過ぎれば自国民を苦しめるということに、新政権もいずれ気付くだろう。