買いたたくのではなく高く売る

 認知度が低い魚は、従来は廃棄されるか、安く買いたたかれるしかなかった。それでは漁師はその魚を積極的には集めてくれず、扱いも雑になって鮮度が落ちてしまう。

 そこで食一は、一般には知られていないが味のいい魚を仕入れ、食材で差異化を図りたい居酒屋や回転すし店などになるべく高く売ることを基本方針としている。

 例えば、毒を持ち危険生物として知られるミノカサゴは、タイと同じ値が付くという。「サバやアジなどどこでも買える魚を扱うと、値段の勝負になってしまう。その縛りから脱却したかった」と田中代表は説明する。

 食一は田中代表が同志社大学在学中の2008年に立ち上げたベンチャー企業だ。仕入れ先となる漁師や漁業協同組合にも、売り先となる飲食店にもツテもコネもないところから事業をスタートさせた。ここ数年は30%を上回るペースで成長しており、2016年8月期の売上高は6000万円を記録。2017年8月期は同1億円を見込んでいる。

関西を中心に卸売先を増やしている
●食一の売上高と取引店舗数推移
関西を中心に卸売先を増やしている<br /> ●食一の売上高と取引店舗数推移

 成長の原動力の一つは、田中代表が築いた全国の漁業関係者とのネットワークだ。創業時も今も、全国の漁港を巡り、珍しくて味のいい鮮魚を探し回っている。「レンタカーに寝袋とまな板、包丁を載せて訪問している」(田中代表)といい、密なコミュニケーションで漁業関係者と信頼関係を築いてきた。

 田中代表は実家が長崎県で魚の卸売業を営んでいたこともあり、漁業の現場に溶け込むのは得意だった。「大学の卒業論文の資料を集めています」と切り出して懐に飛び込み、知り合った漁業関係者の中で、パートナーになれそうな人を選んでいったという。

 重視したのは魚の取り扱い方だ。食一は配送に宅配便を使うが、氷の入れ方や魚の並べ方まで細かく指示するほど鮮度にこだわっている。

 「同じ地引き網漁でも荒く魚を扱うところ、丁寧に扱うところなど地域や人によって異なる」(田中代表)。丁寧に魚を扱ってくれそうな相手を見つけて取引先を拡大していった。現在、仕入れ先は200カ所近くに及ぶ。

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