あらゆるモノがネットにつながり、そこから得られる「データ」が新ビジネスを生む時代。人材の獲得競争は世界規模で過熱、「年収1億円」を提示する企業まで出てきた。だが、慌てる必要はない。自社でじっくり人を育てる手立てはある。

ウェザーニューズのオフィス。航空会社や海運会社などに気象情報を提供する同社をデータサイエンティストが支える
ウェザーニューズのオフィス。航空会社や海運会社などに気象情報を提供する同社をデータサイエンティストが支える
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 「気象予測のためのインフラが十分でない国でも異常気象を予測できるようにして、集中豪雨などの被害を少しでも減らしたい」

 千葉市の海沿いの高層ビルに本社を構える気象情報サービスのウェザーニューズ。執行役員の石橋知博氏は、2019年中の開始を目指して開発中の新システムの狙いをこう語る。東南アジアなど、日本と同様に水害などの天災が多く発生する地域に、日本と同じレベルの精度の高い気象情報を提供したいという。

 気象予測には様々なデータが必要になる。日本では全国20カ所に気象レーダーがあり、「アメダス」と呼ぶ地域気象観測システムもある。同システムでは全国1300カ所に配置した観測装置が降水量や風速、気温、日照時間などを測定し、自動的にデータをシステムに送り込む。これに加えて気象衛星も使う。

 ただ、これだけのインフラを整えるには莫大なコストがかかる。資金力が乏しい途上国ではなかなか整備できない。ウェザーニューズが目指すのは、国際的にも利用が可能な気象衛星からのデータだけで、高精度な気象予測を可能にするシステム。そのデータの分析に使われるのが「データサイエンス」だ。

 前回の「データサイエンス最前線(上)」(18年12月17日号)の記事では、企業が自社の業務改善に生かす事例を見てきた。こうした既存業務の効率化に加え、データサイエンスを新しいビジネスを生み出すために使う企業も増えている。今回は、こうした企業の事例を参考に、その核となる人材をどう確保しているのかを見てみよう。

 衛星からだけのデータを使って気象予測しようというウェザーニューズ。同社はもともと気象データの分析が本業であるため、社内に数十人規模のデータサイエンティストを抱えている。だが、新システムを開発する上でどうしても社内だけでは確保できない人材がいた。AI(人工知能)を扱えるエンジニアだ。

人材獲得競争が勃発
●データサイエンティストに求められる素養とAI人材の位置づけ
人材獲得競争が勃発<br><small>●データサイエンティストに求められる素養とAI人材の位置づけ</small>
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AI人材に1億円?

 AI人材は世界的に不足感が強まっている。中国ネット大手、騰訊控股(テンセント)傘下の研究機関が17年12月にまとめた「AI人材白書」によると、世界の企業が必要としているAI人材は100万人規模。これに対して実際に活動しているのは30万人しかいないという。獲得にかかるコストも急上昇しており、今年4月、インターネット通販の「ゾゾタウン」を運営するゾゾが「優秀なAI人材には最高1億円の年収を払う」とぶち上げて話題になった。

 ウェザーニューズもゾゾのように好待遇でAI人材を迎え入れるのか。同社が頼ったのは、AI開発を得意とするスタートアップだった。

 dAIgnosis(デエイアイグノシス、東京・港)。画像処理向け半導体メーカーの米エヌビディアの支援を受け、AIの中でも特に難度が高いとされる「ディープラーニング」の領域を得意とする企業である。

 今年4月に共同の開発プロジェクトを立ち上げた両社。まず過去の衛星データと実際の観測データを突き合わせ、そこに潜む関連性をdAIgnosisが開発したAIに学ばせた。そうして成長したAIに新しい衛星データを与え、AIが自分なりに考えだした法則で雲の動きを予測させる。その精度がいかほどかはdAIgnosisでは判断できないため、ウェザーニューズのスペシャリストが見極めた。開発着手から9カ月だが、高いレベルの予測ができつつあるという。

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