40年前よりは改善したが、約15年前から鉄道の通勤ラッシュは緩和されていない。独自アンケートによって、新たな「痛勤」の課題が明らかになった。諦めるのはまだ早い。痛勤緩和は、働く人の生産性の向上にもつながるはずだ。

JR横須賀線の武蔵小杉駅の通勤ラッシュでは、乗客が乗り切れないほど混雑が激しい(写真=北山 宏一)

 東京都の小池百合子知事が、公約に「満員電車ゼロ」を掲げている。通勤は時間帯、路線、車両などそれぞれ違うため、満員電車への感じ方は千差万別だ。現状を把握しなければ、ゼロへの方策を議論できない。そこで11月、記者3人が手分けをし、混雑度が高いと言われる路線に乗って通勤ラッシュを体験し、問題点を探った。

 結論から言うと、体験した路線では確実に「痛勤」は続いている。3人は通勤で人ごみにのみ込まれ、出社すると同時に大きな疲労を感じた。

 国土交通省と鉄道各社は、かつての通勤ラッシュは緩和に向かっていると説明する。一つの根拠として「混雑率」という指標を用いている。混雑率とは輸送能力に対する、輸送人員の比率だ。100%を超えるほど、より混雑しているということだ。

 国交省の統計によれば、最も混雑が激しい東京圏31区間の平均混雑率は下落している。1975年度には221%だったが、2015年度には164%になっている。

 だが、2000年代に入ってからは、160~170%の間で混雑率が横ばいになっている。つまり、30~40年前に比べるとマシにはなっているが、15年前からは緩和していないのだ。

2000年代から混雑率は横ばいに
●東京圏31区間の平均混雑率の推移
(写真=北山 宏一)

タワマンで「痛勤」に拍車

 日本全体では人口が減少しているのに、通勤ラッシュが改善しない理由は、東京圏への人口集中が続いているからである。通勤ラッシュの体験や独自のアンケートを通じて、近年の通勤地獄について3つの特徴が浮かび上がってきた。

 1つ目は、路線ごとのトレンドの変化だ。象徴的なのが、東日本旅客鉄道(JR東日本)の横須賀線の武蔵小杉駅だ。同社が公表する2015年度の混雑率は193%で前年度を上回った。

 背景には、2000年以降に武蔵小杉周辺でタワーマンションが相次いで建設され、人口が急増したことがある。総務省が発表した2015年簡易国勢調査によると、武蔵小杉を含む川崎市中原区の2010年比の人口増加率は5.8%で、神奈川県内の市区別で伸び率が最高だった。2010年にそれまで通過していた横須賀線に武蔵小杉駅が新設されたが、利用者の急増に輸送能力が追いついていない状況だ。

 また、人気の路線では引き続き宅地の開発が進み、人口集中が続いている。東京急行電鉄の田園都市線の混雑率は184%と、引き続き高水準だ。

 2つ目は、相互乗り入れ拡大の影響だ。2015年度の混雑率が199%と日本一である東京地下鉄の東西線は、東葉高速鉄道の東葉高速線と相互直通運転をするほか、JR東日本の総武線とも乗り入れている。相互直通運転は乗り換えが少なく便利な半面、遠く離れた駅でトラブルがあった場合でも、全体に遅延が及んで混雑が激しくなる傾向がある。

 3つ目は、ピーク時間帯の拡大だ。会社の出勤時間は主に8時半から9時の会社が多い。従来は、そこに向けて出勤する人々が、ピークの時間帯に集中していた。

 ところが、時差通勤の拡大で混雑の時間帯が広がっている。本来なら時間が分散することで、あまり混まなくなるはずだが、むしろ長い時間、混んでいると感じる人が多いようだ。JR東日本の森本雄司・常務取締役も「ピーク前後の利用者が増えている」と話す。