イノベーションを活性化しようと、モノやサービスを創造する“ゼロイチ人材”を求める声が高まっている。一方で、同調圧力の強い旧来の学校や会社が、そうした人材の芽を摘んでいるといった指摘は尽きない。居ても立っても居られない一部の起業家や教育者らが、草の根の取り組みを始めている。

 東京都世田谷区の特別支援学校の教室では、生徒に交じって白い小型ロボットが席についている。これは“分身型ロボット”の「OriHime(オリヒメ)」。離れた場所にいる持ち主に代わって出席し、教師やクラスメートと会話もする。まるで、その場に本人がいるかのような存在感だ。

ひきこもりから起業

代表 吉藤 健太朗氏
オリィ研究所の吉藤健太朗代表が手に持つのが分身型ロボットOrihime(オリヒメ)。「黒い方がかっこいい」と、自作の“黒い白衣”を常に着用している。
(写真=菊池 くらげ)

 今、このオリヒメが注目を浴びている。病気などで通学や通勤ができなくても、オリヒメを通して、周囲とコミュニケーションがとれる。全身の筋肉が衰えていく難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者が眼球の動きだけでオリヒメを操作し、意思を伝達することも可能だ。

 「僕自身、まともに学校に通っていなかったから」

 オリィ研究所(東京・港)の吉藤健太朗代表に開発の背景を尋ねると、そんな答えが返ってきた。不登校だった吉藤氏は“変わり者”と見られていた。しかし、周囲と異なる経験がイノベーションを生み出した。「1週間ずっと天井を見ながらベッドで過ごしたこともあった。孤独が本当につらかった」。その思いが、自分の分身としてコミュニケーションをするロボットのアイデアにつながった。

 様々な知識を自ら学び、科学技術のコンクールで優勝。優勝者を対象にした特別選抜入試を受け早稲田大学に進学した。だが、分身型ロボットのアイデアを受け入れてくれる研究室はなかった。下宿先に自前の研究室を作って開発に明け暮れた。必修科目は無視し、ロボットデザインに通ずる美術や資金調達の方法を学べる経営学など、自分が必要だと思う授業にだけ潜り込んだ。

中卒から東証1部社長に

社長 林 高生氏
エイチームの林高生社長は自身の半生を踏まえて「学校の科目は選択式でいい。やりたいことを突き詰めたほうが伸びる」と話す
(写真=森田 直希)

 スマートフォン向けゲームや価格比較サイトなどを展開するエイチームの林高生社長も、その半生は既存の学校教育とは縁遠い。最終学歴は中卒ながら同社を創業して東証1部上場にまで成長させた。

 比較的裕福な家庭に生まれた林氏だが、9歳の時に大黒柱の父が他界。「貧乏のあまり中学校のかばんも買えなかった」というほど家計が困窮したため、高校進学を断念した。住み込みの新聞配達やビルの窓掃除、皿洗いなど様々なアルバイトで家計を助けた。

 起業の武器になったのは、小学5年のときに出合ったプログラミングだった。独学で腕を磨き、大学入学資格検定の受験勉強でもプログラミングに通じる数学や物理ばかりを学んだ。林氏は「やりたいことを突き詰めたから、今の自分がある。学校は関係なかった」と振り返る。