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先輩がコーチ役に

 ここ数年、大阪を中心にした関西の中小企業の間で、家業を時代に合わせて競争力のある事業に作り変えようという「事業革新」が活発化している。

 この日の会合は、若手の後継者らが事業革新のアイデアを乱打し、鍛え合うことからテニスの練習に倣って仲間内で「壁打ち」と呼んでいるものだ。

 これ自体は勉強会の一つだが、活動の幅は広がっている。中心にいるのは地元中小企業の3代目、4代目といった跡継ぎたち。その中で先輩格の経営者が思い切って家業を作り直し、成功する例がここ10年ほどの間に増加。下の世代がそれに続こうとし始めている。一方の先輩側は“コーチ”役となるなど、まるで部活動のような独特の中小企業改革が進んでいるのだ。

 18年2月と8月には、こうした改革意欲の強い後継者ら数十人が参加し、4~5人のチームを作って事業アイデアを競い合う「アトツギソン」を、9月には個人参加で家業の革新アイデアをプレゼンテーションする「アトツギピッチ」といったイベントも始めた。いずれもスタートアップの関連イベントになぞらえたものだ。大阪府の中小企業支援事業を受託している大阪産業創造館が事務局的な役割をしているが、主体は跡継ぎ経営者自身。互いに呼びかけて集まっている。

 こんな取り組みを始めた背景にあるのは、中小企業の苦境と後継者難だ。左のグラフのようにここ10年、国内の中小企業は倒産件数こそ減少しているが、休廃業・解散件数はほぼ一貫して増え続けてきた。一因は「経営者自身やその子供の間に中小企業の将来に対する悲観的な見方が広がった」(植杉威一郎・一橋大学経済研究所教授)こと。

倒産は減っているが、休廃業・解散が増えている
●中堅・中小企業の休廃業・解散と倒産件数の推移
出所:東京商工リサーチの2016年「休廃業・解散企業」動向調査
後継者不足が大きな要因
●休廃業・解散した中小企業の経営者の年齢
出所:‌東京商工リサーチの2016年「休廃業・解散企業」動向調査
毎年減少を続けている
●中堅・中小企業数の推移
出所:総務省、経済産業省などのデータを基に中小企業庁作成

 大企業の工場の海外移転で仕事が減り、競争激化で下請けへの価格引き下げ要請も厳しさを増す。人口減で多くの市場が停滞・縮小する一方、技術の進化でEC(電子商取引)が拡大するなど、既存ビジネスのあり方に大きな影響を及ぼすような変化が起き続けてきた。

 関西地区は、経済の地盤沈下が特に進んだ。経済産業省によると、全国の資本金1億円以上の企業のうち関西圏の企業が占める比率は、1980年に20.7%だったが、2015年には13.5%に低下。大阪府内だけに本社があるか、他地域との複数本社制で大阪に主要本社がある大企業(資本金100億円以上)はピーク時(1999年)の143社から、2014年には99社に激減している。大企業の減少は時間を経て下請け中小企業との取引減少をもたらすだけに、関西地区の中小企業にはボディーブローのように効き続けたはずだ。

 地域の経済成長力も停滞している。15年度の都道府県別のGDP(域内総生産)では、1950年度の統計開始以来、東京都に次ぐ2位を保ってきた大阪府が愛知県に初めて抜かれた。関西全体で見ても域内総生産の全国に占める比率は80年には18.0%だったが、2014年は16.2%に落ちた。

 こうした中で「従来の事業だけでは厳しくなる中小企業が年々増えてきた」(大阪産業創造館チーフプロデューサーで自身も中小企業経営者の山野千枝氏)のである。生き残りのカギは「自立」だった。「経済が伸び悩み、大企業との取引も縮小する中では独自の生き残り策を考えるほかなかった」(大阪市のインターナショナルシューズの3代目、上田誠一郎専務)からだ。今、若手跡継ぎのモデルになっている先輩が挑んだのはまさにそれだった。

 道筋は大きく2つあった。一つは家業の骨格を残しながら中身を精査し、売り方やブランド戦略などを大胆に見直すこと。もう一つは、既存の事業や技術の中から可能性があるものを取捨選択し、強みのあるものに特化して新事業を創り出すことだ。以下ではその具体事例を見ていこう。

日経ビジネス2018年11月19日号 48~53ページより目次