通信制高校は、家庭環境などやむを得ない事情がある生徒が卒業資格を得るための受け皿として機能してきた。しかしN高が目指す姿は異なる。

基本はネット、リアル体験も充実
●通信制「N高等学校」の取り組み
沖縄本校の教職員室。
大学受験向け「N予備校」のアプリ画面

 ドワンゴ会長でもあるカドカワの川上量生社長は言う。「僕たちはネット時代のエリートを作ろうとしている。通信制で、しかも実績がないのに初年度から2000人も集まり、しかも第1志望にしてくれた生徒が非常に多い。教育の現場ではすごいことらしいです」。

 ネットを駆使した効率的な教育を目指すN高。卒業資格を得る授業は全てネットの専用ツールを使い、沖縄本校の教員が遠隔でサポートする。担任と生徒たちはIT企業などが業務でよく使うSNS「Slack」でつながり、部活もネットで行う。例えば将棋部はプロ棋士が生放送の動画で参加。部員はコメントを書き込みながら学ぶ。

 東京・六本木のイベント施設「ニコファーレ」で今年4月に行われた入学式では、集まった数十人の生徒が「VR(仮想現実)」のゴーグルを着け、中継で結ばれた沖縄本校の映像に没入。型破りな入学式として多くのメディアが報じ、ネット上でも話題を呼んだ。

 だが、こうしたネットの活用はN高を物語る表層的な一部分にすぎない。「通信制」がやりたかったわけでもない。N高の本質は、高校としての授業や行事以外にある。

授業外の空いた時間がメーン

「理想の高校を作る」奥平博一(58歳)
前職も通信制高校の校長。N高の企画段階から立ち上げに関わった

 「生徒の夢ややりたいことは一人ひとり違う。それぞれの良き伴走者となって、実現させてあげたい」。小学校教諭から塾講師、通信制高校の校長と、30年以上教育界に身を置いた奥平校長は、自身の思いをこう語る。

 そのためには「通信制の制度を使えばもっとできることがある」と考えた。高校卒業資格を得る授業は、各自が好きな時間に1日2~3時間もこなせば十分。生徒の時間はかなり残る。その空いた時間をメーンに据えた高校を作れば、生徒はもっと伸びるはず。

 奥平校長はカドカワの役員らとN高を企画、開校にこぎつけた。

 確かに「やりたいこと」への道筋が明確な生徒には、この「空いた時間」が魅力に映っている。

 「将来の夢は美容の専門家。卒業したら行きたい専門学校が決まっている。学費のためにアルバイトで毎月いくらためるかも計算している。あとは前に進むだけなんですよ」

「夢は美容部員」 村山夏未(16歳)
不登校だったが心機一転、N高へ。夢への道筋と計画を明確に描き、突き進む

 1年の村山夏未さんは力強くこう話す。中学時代は周りと合わず、家庭の事情もあり、2年の途中から不登校になった。「何かを変えなきゃ、この先やっていけない」。夢を見つけ、実現までの最短距離を逆算した。そんな折、ネットでN高が開校することを知り、「ここだ!」と思った。「全日制の高校はロスタイムが多すぎて。N高は時間が欲しい私にとって最適なんです」。

 N高のメリットは、各自が自分の時間を持てるということだけではない。川上社長が「お金をかけて注力しているのは全部、課外授業。本当に社会で生きていくための選択肢を与える」と話すように、生徒の多様なニーズに応えるべく、高校卒業資格を得る授業以外にも、あらゆるメニューを用意した。その目玉が「N予備校」だ。

 N高には、大学への進学を目指す生徒もたくさんいる。そうした生徒のために、川上社長いわく「一流の執筆陣、講師陣を集めた」という大学受験向けのネット教材を作った。

 人気の参考書や問題集を執筆する教師や講師に、ネットを前提とした教材をゼロから開発してもらった。それをベースに、ドワンゴが作成したスマートフォン向けの専用アプリを通じて、提携する代々木ゼミナールの講師などが動画の生放送で授業を行う。生徒はコメント機能で質問ができる。