人事とITを融合する「HR(=Human Resources:人事)テック」の進化が加速している。社内に散らばるあらゆるデータを分析し、人事に生かす仕組みが相次ぎ登場。経営者や人事部はうまく使いこなせるか。その運用の巧拙が問われる。

今年5月、日清食品ホールディングスは中期経営計画を発表した。海外展開と新商品開発を加速させ、2020年度の営業利益を2015年度の1.6倍程度に伸ばす目標を掲げる。
達成するには、国内外の拠点に散らばる社員の能力や適性を正確に把握し、人材を育てながら適材適所に配置していくことが欠かせない。
ただし、社員の所属する部署や過去の人事評価、TOEICのスコアといった指標だけで、社員の適性や能力を判断するのは容易ではない。グループ全体の国内の社員数は約2000人。経営陣や管理職が社員一人ひとりの顔と名前を一致させることすら至難の業だ。
日清の人事部はこの課題を見越し、中計を発表する前に手を打っていた。それが、膨大な人事情報と顔写真とをひも付け、クラウド上で一元管理するシステムの導入だ。
それまではプレゼンテーションや表計算のソフトを使って人事データを保存していた。大量のデータを処理するには向かず、処理のスピードも遅い。顔写真とデータとをひも付けたはいいものの、2000人の情報を画像と一緒に瞬時に並べ替えるといった試みもうまくいかなかった。
クラウド化したことで、外部サーバーの強力な処理能力を使い、いつでもどこでも顔写真にひも付けた人事データを自在に操れるようになった。「社員の顔を経営陣が具体的に思い浮かべることができるので、議論がスムーズに進むようになった」と人事部門を統括する上村成彦・執行役員は満足げだ。
日清が導入したのは、カオナビ(東京都港区)が開発した同名のサービス。「事業を始めた2012年当初は、顔写真と人事データを一元管理することはおろか、クラウドに情報を保管することすら敬遠する人事関係者が多かった」と柳橋仁機・代表取締役は振り返る。
状況が変わったのは日清がサービスを導入した2014年前後のこと。人事にもようやくIT(情報技術)化の波が押し寄せた。マーケティングや生産管理で威力を発揮したクラウドの仕組みを応用すれば、業務効率化だけでなく、人材の最適配置や育成にも効果を発揮することが明らかになってきたからだ。
ITを活用し、人事関連の業務を効率化したり新たな価値を生み出したりする技術は「HRテック」と呼ばれる。金融とITを組み合わせたフィンテックに続いて、企業の注目を集める領域だ。
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