米大統領選の投票日まで10日を切った。トランプ氏の劣勢が伝えられるが、政治の世界は、一瞬先は闇だ。トランプ氏が大統領になったら何が起こり得るのか。経営者と有識者の意見を聞いた。
女性蔑視発言をしたビデオの存在が明らかになった後も、トランプ氏が開く集会には多くの支持者が足を運ぶ(文=米大統領選挙取材班 編集協力=岩下 慶一 写真=トランプ氏:AP/アフロ、他2点:ロイター/アフロ )
保護主義、孤立主義の傾向が強い
●トランプ氏が掲げる主な政策(後に修正したものを含む)
自由貿易/TPP*1 |
中国やメキシコのため雇用が失われている。NAFTA*2は欠陥がある最悪の貿易協定で再交渉が必要。TPPはばかげた協定だ。離脱すべき |
日本 |
駐留米軍について費用負担増を求める。日本は応分の負担をしていない。(春までは日本は核武装を含めて自衛力を高めるべきだと主張していた。全額を負担しなければ米軍を撤退させるとも言及) |
中国 |
中国が鉄鋼を不当に安く販売するため、米国の雇用が失われた。元安を誘導し、米国から利益を上げている |
安全保障 |
ドイツ、韓国、サウジアラビアなどは、米国に守られているにもかかわらず、適切な対価を支払っていない。米国が世界の警察になることはできない |
イスラム国(IS) |
壊滅させる。オバマ政権が米軍のイラク撤退を決めたことで、ISが生まれる素地を作った |
移民 |
メキシコとの国境に沿って壁を構築し、不法移民を防ぐ。シリアなどいくつかの地域から米国に至る移民に対して厳しい身元審査を課す(「イスラム教徒の入国を禁止する」との主張は修正) |
税制 |
連邦法人税率を35%から15%に引き下げる。これにより企業が海外に滞留させている資金を取り戻すことができる。税率が高いため、多くの企業が海外に出ていってしまった |
*1=環太平洋経済連携協定 *2=北米自由貿易協定。米国とメキシコ、カナダが結んだ自由貿易協定
「トランプ氏にキスされ、体を触られた」。米共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏が再び逆風にさらされている。かつてテレビ番組で共演した女性らがこのように訴えたのを機に、セクハラ疑惑が高じているのだ。10月19日に開かれた第3回テレビ討論会でトランプ氏は「事実ではない。(米民主党候補のヒラリー)クリントン陣営が扇動した」と強弁したが説得力は感じられなかった。
11月8日の米大統領選挙の投票日が約1週間後に迫った現在、世論調査の多くが、クリントン氏の優勢を示す。だが、選挙の結果は開票が終わるまで予断を許さない。
トランプ氏が当選する可能性も十分に残っている。同氏はなぜか暴言が致命傷にならない。7月末、「米国のタブー」を破り、米兵遺族を中傷する発言を口にした。ここで支持率を5ポイント落としたものの、9月半ばには、クリントン氏との差を1%にまで縮めた。
クリントン氏は健康面の不安を払拭できていない。投票日までに再び体調を崩すことがあれば支持率は急降下しかねない。英国民が国民投票でBREXIT(欧州連合=EUからの離脱)を決めたことを振り返れば、「まさか」は依然として起こり得る。
ビジネスで鍛えた交渉力
そこで日経ビジネスは「もしトランプ氏が大統領になったら…」という仮定の下、世界の政治、経済、社会にどのような影響を与え得るか、経営者や研究者などの意見を聞いた。
ここでは、その前提となるトランプ氏の人物像と政策を振り返る。
ドナルド・ジョン・トランプ氏は1946年生まれの70歳。ドイツ系の裕福な不動産業者、フレッド・トランプ氏の第4子として米ニューヨーク市クイーンズ地区に誕生した。父フレッド氏は頑固なビジネスマンで、トランプ氏はこの気質を受け継いだようだ。
子供時代は問題児で、小学校の教師にパンチをお見舞いしたことを自伝で告白している。本人いわく、「強引なやり方で自分の考えを分からせようとする」性格だった。現在のトランプ氏の原型は少年時代には確立していた。
米ペンシルベニア大学で経営学を学んだトランプ氏は父親の会社を手伝い始める。会社の実権を握るとマンハッタンへ進出し、数々の大規模案件を成功させた。マンハッタン西岸の広大な鉄道操車場を、世界有数の高級コンドミニアムが立ち並ぶ地区に変貌させる。5番街にそびえるトランプタワーをはじめマンハッタンのランドマークを数多く作ったのは周知の通りだ。
「破廉恥なトランプ」の大合唱の声にかき消されがちだが、並外れたリーダーシップと交渉力の持ち主と評価する向きもある。
ただし手痛い失敗も犯している。90年代半ば、ホテル事業などを経営破綻させ、9億ドル(約940億円)を超える損失を生み出した。その後、事業を再び軌道に乗せているが、破綻に伴って多額の税額控除を受けていることが10月に明らかになり批判を浴びている。
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