数年前に一大ブームを巻き起こした、誰でもモノ作りができる「メーカーズ革命」。これまで主に個人だった生産革命の担い手が、企業に移り始めている。オフィスからクルマの車体、加熱炉まで。3Dプリンターの活用はここまで来た。

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイの金融街に今年5月、一風変わった真っ白の建造物が誕生した。長方形の中空管を横に倒して地面に置いたような形で、角に丸みがある。
建設したのはドバイ政府。使ったのが、高さ約6m、幅約12m、長さ約36mの巨大な3Dプリンターだ。
ノズルから出るセメントを鉄骨の上に積み重ねて部品を作り、建設現場まで運んで組み立てた。完成まで約20日間。費用は14万ドル(約1400万円)で、通常の工法より安く済んだという。
3Dプリンターはこれまで「未来の生産機械」と注目を集めながらも、活用がほとんど進んでこなかった。その最たる理由が「価格」と「時間」だ。
ノズルから少しずつ材料を出して固めていくため、一つひとつ違った設計の部品を造るのには向いている。ただ、一定以上の生産量になると、金型をセットしたプレス機などを使う方が、1個当たりに要する時間もコストも少なくて済む。
今年に入り、斬新な発想で3Dプリンターの弱点を乗り越える事例が目立つようになってきた。ドバイのオフィスもその一つ。これまでにも建造物の一部に3Dプリンターを活用する例はあったが、内装まで含めてオフィス全体を造るのはまれだ。大型の3Dプリンターを新たに造っても、同じ設計の建造物をいくつも造れば採算が合うということだろう。
ドバイだけではない。スイスのセメント世界最大手、ラファージュホルシムは9月20日、3Dプリンター技術を使った大型建築技術を確立したと発表。日本でも清水建設が建築物の模型を3Dプリンターで作るという、大手ゼネコンでも珍しい取り組みを開始した。2015年冬から台数を増やして本格的に活用したところ、模型製作にかかる時間を大幅に削減できたという。
EVの車体を丸ごと「印刷」
車体を丸ごと「印刷」する
●EV(電気自動車)「Strati」の試作車


3Dプリンターのコンサルティング会社、米ウォーラーズアソシエートの調査によると、2015年の3Dプリンターを用いた製品やサービスの市場は51億6500万ドル(約5165億円)で、前年より25.9%拡大した。5000ドル以上の3Dプリンターの販売台数もここ数年で倍増し、1万2000台を超えた。
モノ作りの最前線でも変化が起きている。9月中旬に米国シカゴで開催された工作機械見本市「IMTS2016(通称シカゴショー)」。今年は、3Dプリンターを使う事例が数多く出展された。
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