開発費用310億円の天文衛星「ひとみ」は、打ち上げ後40日で機能を喪失した。原因は開発管理の初歩的なミス。だが、管理強化だけでは事態はむしろ悪化する。このままでは日本の宇宙開発の人材育成と技術開発の苗床が失われかねない。

3月28日に分解事故を起こしたX線天文衛星「ひとみ」(写真=松浦 晋也)

 2016年3月28日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究所(ISAS)のX線天文衛星「ひとみ」は、異常回転から分解事故を起こした。開発費用310億円をかけ、世界の期待を担っていた観測衛星は、打ち上げ後40日で機能を喪失してしまった。

 6月14日に、JAXAから文部科学省・宇宙開発利用部会へ「X線天文衛星ASTRO-H『ひとみ』異常事象調査報告書」が提出された。報告書では、ひとみの事故原因をプロジェクトの計画管理体制の不備と指摘し、対策は「計画管理体制の厳密化・強化」としている。

 が、ひとみの事故の真の理由は、開発組織が培ってきた組織文化にある。それは事故の原因でもあり、効率的な研究開発・人材育成のカギでもあった。単なる管理強化でよしとすれば、まさしく「角を矯めて牛を殺す」ことになる。

 日本の宇宙開発体制の課題、そして、組織文化と管理体制をどうマッチングさせるかのケーススタディーとして、本件を考えてみたい。

錯誤と見落としが連鎖

 ひとみの事故は、衛星開発と運用の両面での、普通なら考えにくいほどの錯誤と見落としの連続から発生した。

X線天文衛星「ひとみ」喪失の経緯
●JAXAの「『ひとみ』異常事象調査報告書」から
「ひとみ」の宇宙空間での姿。(イラスト=池下 章裕 )
プログラムのミスが重なってZ軸(機体の長軸)を中心に高速回転を起こし、EOBと太陽電池パドルがちぎれた。報告書はネットで公開されている。詳細は日経ビジネスオンライン「かなり“攻めている”「ひとみ」事故報告書」に掲載(写真=松浦 晋也)

 ごく簡単に書くと、まず衛星の姿勢を検出する装置の判断基準に問題があり、ひとみは実際には回転していないにもかかわらず、自分が回転していると誤認。姿勢を直そうとして逆に回転を始める。最終的にスラスター(姿勢制御を行う小さなロケットエンジン)の噴射で、「セーフホールドモード」という最も安全な姿勢に入ろうとしたが、コンピューターに記憶させてあった噴射パターンが間違っていたために、かえって高速回転状態に陥ってしまい、2つの太陽電池パドル、そしてセンサーを積んだ伸展式光学ベンチ(EOB)が遠心力でちぎれて、衛星機能を喪失してしまった。