リーマンショックが起きるまで増産に次ぐ増産を続けていたトヨタが置き去りにしていたモノづくりの「基本」。ショックを機に改めて生産ラインのあり方を見直し、本社工場を筆頭にフレキシブルラインの再構築を急いだ。12年にトヨタ系3社が統合して宮城県に発足したトヨタ自動車東日本の新設ラインでも生かされ、今やトヨタにとって「国内第3の生産拠点」に育った。
目の前の受注を断る勇気
需要蒸発という危機に直面して生産ラインを見直したトヨタ。ただ、モノづくりにおいては、単に現場だけを「カイゼン」すれば筋肉質な体質に生まれ変わるわけではない。サプライヤーから販売店までの全体のサプライチェーンを見渡さないと、本当の意味での無駄のない生産体制は作れない。ショックを機に、トヨタを含めサプライチェーン全体を見直した企業は多い。
「これを見てくれ、ミスター・エビサワ。君が売った製品在庫の山だよ」
09年12月、日本精工(NSK)の海老澤斉は、中国の販売代理店の経営者に倉庫に案内されるや否や、山ほどたまったベアリング(機械部品)の山を前に、こんな嫌味を言われたことを忘れない。海老澤はこの時、中国の産業機械本部長として同国に赴任したばかりだった。
なぜ、こんなことになったのか。話は海老澤が本社の産業機械部門にいた08年9月にさかのぼる。
海老澤は経営会議で風力発電設備などのベアリングを造る工場の増強計画を提案した。受注が好調だったからだ。ところが経営陣から待ったがかかる。「新規投資は凍結だ」。まさにリーマンショックによる需要蒸発が起き始めようとしていた時。経営陣は需要の先行きに確信が持てなかったのだ。
その判断は間違っていなかった。月を追うごとに新規受注は減少。そればかりか、2年分あった受注にも次々とキャンセルが入った。ついに工場で造るものもほとんどなくなった。
●日本精工(NSK)の実施例



そこに一筋の光が差した。08年11月に4兆元(約60兆円)の景気刺激策を打ち出した中国だ。その効果が中国全土に広がるにつれ、景気は上向き、NSKの産業機械部門でも受注が回復する。
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