Special Report『セイコーエプソン流新規事業の作り方』
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多くの企業が新規事業をどう生み出せばいいかで悩んでいる。セイコーエプソンはなぜ新たなジャンルの製品を次々に生み出せているのか。

 「企業を成長させるために新規事業を作る話はよく聞くが、本当の意味で顧客視点になっていないものも多い。実際は顧客の囲い込みだったり、新たなソリューションを販売したいだけだったり」

 「そういうのは嫌で、世の中の人から感動してもらったり、新しい価値ができたなって思ってもらったりするものを作らないといけない。だから自分は、新規事業を開発しようとはあまり思わないようにしている。新規事業は当然作りたいが、何のための事業かという志が一番大切だ」

<b>1979年11月に信州精器(現セイコーエプソン)入社。プリンターの開発に従事。2008年6月から現職。</b>(写真=的野 弘路)
1979年11月に信州精器(現セイコーエプソン)入社。プリンターの開発に従事。2008年6月から現職。(写真=的野 弘路)

 「志があれば何でもやるというわけではない。将来、こうなるといいなと考える姿と、自分たちにどういう技術や人材があって、どの分野なら力が発揮できそうかを考えて、うまく結びつくところで取り組むテーマを決める必要がある」

「ペーパーラボ」はどのような経緯で開発が始まったのか。

 「我々はインクジェットプリンターを中心に紙を印刷する機械を売るビジネスをしてきた。今後もそれなりに続けられるとは思うが、将来はペーパーレスの時代になってしまうという議論が常につきまとっていた」

 「インクジェットプリンターがいくら環境に優しい、コストが安いとか言っても、相対的なものでしかない。今の紙文化をちゃんと後世に伝えたり、もっと使いやすいものにしたりしていくためには、ペーパーレスということを言われないようなソリューションを作り出さなくてはならないと考えた。その考えと自社が培った技術が交わるところから発想して、開発の現場が考えて形にしてくれたのがペーパーラボだ」

ペーパーラボを発表したことは社内にどのような影響を与えているか。

 「社内にはいい影響が生まれている。『他社がこんな新たな製品をやっているのでウチもやろう』という発想から抜け出す必要がある。世の中の期待を真摯に受け止め、自分の頭でしっかり考えて新しい価値を生み出す。そのことに集中して取り組めば、解決策が見つかる。それを自分の会社が証明したというのは自信になるし、励みになる」

新しい価値を生むことと、売り上げや利益をしっかり確保することは短期的には両立が難しいのではないか。

 「新たな価値を作り出すといっても、既存のプリンター事業をなくすわけにもいかない。両者のバランスを取りながら進めるのは当然だ。ただ、どのぐらい利益が出た、出なかったという話と、価値をどう作り出したか、世の中の人を幸せにできたかというのは、短期的には必ずしも一致しないと考えている。新しい価値をどんどん生み出せる会社だと認知されれば、誰からも文句は言われなくなるはずだ。それを我々が証明したい」

会社が進む方向を大きく変えようとしているのか。

 「変わろうという意識はない。今までにないものを作ろうとしているだけだ。『エプソンが最近、ほかにはないものを作っているな』と見られるようになってきたなら、会社が変わってきているということかもしれない」

同業他社は大型の買収を実行している。他社の買収は選択肢にあるのか。

 「買収で既存事業とシナジーを生み、新しい分野に参入することで収益を高めるという考えは理解できる。ただ、エプソンを世の中のためになくてはならない会社にするためには、エプソンならではの価値を作り出すしかない」

 「これは、買収では実現できないことだ。価値とは、世の中をこういう世界にしたいという志を持って、自分を磨き上げて、世の中と本当に真摯に向き合ってゼロから作り出すものだ。スマートグラスにしても双腕ロボットにしても、よそじゃ決して作れない。エプソンしか作れない新しい価値をどんどん生み出す会社にしていきたい」

3月発表の2025年までの長期ビジョン「Epson 25」は何を目指しているのか。

 「エプソンの強みである『省・小・精』の技術から生まれる新しい価値を『スマート』『環境』『パフォーマンス』に分類した。効率化やサービス向上によって社会のわずらわしさを解消し、環境負荷の削減と高い生産性・創造性をもたらしたいと考えている」

 「これらに相当する製品を市場に投入し、エプソンブランドの最大化を図っていく。2025年度に売上高1兆7000億円(2015年度1兆924億円)、営業利益2000億円(同940億円)を目標としている」

 「新規事業ももちろん取り組むが、ビジネスで使うプリンターや複合機の印刷も、レーザープリンターからエプソンのインクジェットに置き換えていく。将来的にはペーパーラボの機能も組み込んで、自動車産業でハイブリッド車や電気自動車が生まれた時のようなインパクトを与えたい」

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日経ビジネス2016年5月9日号 48~49ページより目次

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