朴槿恵(パク・クネ)前大統領の罷免・逮捕で韓国政治は一新した。中国の経済停滞と韓国財閥の競争力低下で、経済低迷から抜け出せていない。次期大統領候補は「財閥改革」「雇用創出」を唱えるが、実現の道は険しい。

「新大統領は今度こそ、格差問題を何とかしてほしい。景気低迷の中での競争激化で、手当はおろか交通費さえ削られている人も珍しくない。本当に『もう、生きていられない』という声が聞かれるほどだ」
ソウル市などで非正規労働者の支援をしている韓国全国不安定雇用撤廃連帯のオム・ジンギョン常任支援委員は、拳を握りしめながらそう強調する。
前大統領の朴槿恵容疑者の弾劾・罷免、さらに逮捕を受けて実施された韓国大統領選は5月9日、投開票される。革新系の最大野党、「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表と中道系の野党第2党、「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)前代表の事実上の一騎打ちとなった。選挙の重要な争点が、非正規労働者の増大、若年失業など雇用問題と格差・貧困の拡大だった。
背景にあるのは、李明博(イ・ミョンバク)政権末期の2012年頃から続く景気減速と、そこから復活の糸口が見えない韓国経済自体の閉塞状況だ(下のグラフ参照)。01~10年までの実質GDP(国内総生産)の平均成長率は4.4%だったが、15年と16年は成長率が2%台半ばに落ち込んだ。
●韓国の実質GDP成長率の推移

韓国経済の停滞は、非正規労働者を増大させ、2極化をさらに進展させる。前出のオム委員のコメントにあるように、国民のいら立ちを解消するには経済成長が欠かせない。新政権は、まず経済の立て直しを求められるが、先行きは難路が続く。最大の難題は輸出の伸び悩みだ。
アジア通貨危機以後の歴代政権の政策と主な出来事
大統領(任期)(1998年2月~2003年2月)

- 国際通貨基金(IMF)から資金援助を受ける一方、金融機関の整理・統廃合を進め、公的資金投入で不良債権処理
- 財閥の系列企業縮小、財閥間での企業の整理・統合
- 労働界、企業、政府の労使政委員会を発足させ、整理解雇の法制化などを含めた労働市場の柔軟化を図ったが頓挫
- 規制緩和による経済活性化など新自由主義路線を進んだ
- 北朝鮮に融和的な「太陽政策」をとった
- 1997年のアジア通貨危機で金融システム不安に。銀行と財閥の一部が破綻
- GDP(国内総生産)成長率は、98年のマイナス6.7%から99年にはプラス10.9%へV字回復した
- 所得格差が拡大。貧富の差が大きくなった
大統領(任期)(2003年2月末~2008年2月)

- 貧困層などに働く場を提供する「社会的就労」を行政の資金で拡大。格差拡大に対応しようとした
- ソウル一極集中を是正しようと首都機能移転を図ったが、憲法裁判所に違憲とされた
- 任期途中から対日強硬策へ。戦前の植民地支配などへ強い批判を展開し始めた
- 米国との間で米韓自由貿易協定(FTA)を2007年4月に締結。前大統領の経済の新自由主義路線を継続した
- 大学進学率が80%を超えたが、就職できない若者が急増。社会問題に
- 「能力主義」「リストラ」「非正規雇用」など、厳しい格差社会になっていった
大統領(任期)(2008年2月末~2013年2月)

- 海外投資規制と大規模な財政出動で通貨危機回避を図った
- 経済成長率7%、国民所得4万ドル、7大経済大国入りを目指す「747ビジョン」を打ち出し、高成長回復を目指した
- 減税と大規模公共投資で景気回復を図った。ソウルに大運河を建設するといった構想を打ち上げたが、実現できなかった
- 北朝鮮政策を転換。多くの懸案で北朝鮮側にまず譲歩を迫る
- 政権後半は、支持率低下と共に対日強硬姿勢を強めた
- リーマンショックでウォンが大幅下落。中小企業の一部が大きな損失を被り、国費で救済
- ドル不足など、再度の金融危機に陥りかけた
大統領(任期)(2013年2月末~2017年3月)

- 中国に接近。対中依存を強める
- 財閥のオーナー家が少ない持ち株で支配をできるようにする循環出資と呼ばれる仕組みを一部制限。新規の循環出資を禁止したが、抜本的ではなかった
- 大企業が中小企業に不当な取引を迫ることを禁止するなど、大企業と中小企業の地位の平等化を図ったが、十分ではなかった
- ベンチャー企業の創出など「創造経済」推進を掲げ、金融や経営などの支援をしたが、効果はほとんどでなかった
- 実質GDP成長率が、李明博政権後半から2%台半ばに低下。経済の伸び悩みが“長期化”
- 中国経済の減速が明確に
- 2015年5月、MERS(中東呼吸器症候群)の感染が拡大。景気停滞に拍車をかける
- 崔順実事件で2017年3月、罷免
(写真=上から:Reuters/AFLO、Peter Macdiarmid/Getty Images、
下2点:Pool/Getty Images)
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