郊外で着実に広がる支持

 実際にルペン候補が勝利する可能性はどの程度あるのか。その影響力を知るため、パリから東にクルマで約3時間ほどの小さな町に向かった。

 仏北東部、ルクセンブルクとドイツ国境近くに位置するフロランジュ。11年、人口約1万の町は、ある出来事によって仏全土に名を知られることになった。

 鉄鋼世界大手、欧州アルセロール・ミタルはこの年、フロランジュにある2基の高炉の操業の停止を突然発表した。熾烈な世界競争で生き残るためのリストラ策だったが、フロランジュ周辺地域は関連産業も含めて数千人規模の失業者であふれ返った。これが仏全土を揺るがす社会問題となった。

 フロランジュの失業問題は翌12年の大統領選の争点となり、社会党のフランソワ・オランド候補(現大統領)が、共和党のニコラ・サルコジ大統領を破る大きな要因となった。大統領に就任したオランド氏は町に高炉の操業再開を約束。その後、大企業が工場を停止する際には事前に売却先を義務付けるなどの法律を制定し、「フロランジュ法」と名付けた。

 政治介入を受け、ミタルはフロランジュの別の生産設備に投資することを決めたものの、町の活況は戻らなかった。失業率改善と景気回復を掲げたオランド大統領だったが、フランスの失業率は17年1月で10%と、ライバルであるドイツの3.8%を大幅に上回る。特にフロランジュをはじめとした工業地帯の停滞は深刻で、一帯は米中西部の荒廃した工業地帯になぞらえ、フランスの「ラストベルト」と呼ばれている。オランド大統領は結局、公約を果たせないまま、2期目の大統領選には出馬しないと表明した。

 「社会党には裏切られた」。フロランジュに住む30代の男性は言う。ミタルの高炉関連の仕事をしていたというこの男性は、今も定職に就いていない。「社会党は労働者の味方だと訴えているが、この5年、我々の生活は何一つ変わらなかった。今はルペンの方が、はるかに期待できる」。そう言うと男性は、壁に張ってあったルペン候補のポスターを指差した。

 フロランジュのような高い失業率に苦しむ地域や、欧州統合が進む中で恩恵を受けていないと感じる地域では、社会党への失望を埋めるように、国民戦線が支持を広げている。「国民戦線は低所得者や中小・零細企業への支援を充実させる左派的な経済政策を掲げたことで、社会党に不満を持つ国民を吸収している」と仏ニース大学で比較政治学を研究するギレス・イバルディ氏は言う。世論調査によると、国民戦線の支持率はパリでは14%にとどまるが、郊外では26%、さらに農村部では30%に跳ね上がる。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2355文字 / 全文文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「SPECIAL REPORT」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。