2月28日に米上下両院合同会議で施政方針演説をしたトランプ大統領。「大統領らしい」と高評価だったが、ホワイトハウスはすぐに元のカオスに戻った(写真=Chip Somodevilla/Getty Images)

 また同氏の会社は従業員数が少ないため、オバマケア(米医療保険制度改革法)が企業に課している従業員の保険加入義務を免れているものの、オバマケアの負担を嫌って、従業員を解雇する企業を目の当たりにしている。

 シーリー氏自身、移民や自由貿易を否定してはいないが、不法移民のために米国人の賃金が下がっていると考えている。同様に、国境管理の厳格化は主権国家として当たり前で、多国間の貿易協定の中で米国が一方的に海外製品を受け入れるのは不公平、米国の大統領が米国民の国益を追求して何が問題なのか──との姿勢を取る。これはトランプ支持者に共通する世界観だ。

 「トランプ大統領は選挙でやると言ったことをやっているだけ。これまでもあらゆる大統領が大統領令を行使している。(フランクリン)ルーズベルト大統領は3721回、オバマ大統領は277回、トランプ大統領は17回。大したことないだろう?」(同氏)

ショーン・スパイサー大統領報道官。トランプ大統領の無軌道な放言を必死に弁護しているが、失笑を買うこともしばしば。笑いのネタにされるなど散々(写真=Bloomberg/Getty Images)

 トランプ氏の政策を巡る反トランプ派と親トランプ派の意見の相違は、もはや神学論争に近い。

 両者の断絶は数字にも表れる。米調査会社ギャラップによれば、トランプ氏の支持率は共和党支持者では88%だが、無党派層では38%、民主党支持者では10%と極端な差がある(全体の支持率は3月22日時点で40%)。トランプ氏は国民の団結を訴えるものの逆に分断が加速しているように見える。

 トランプ政権が唱える政策が効果を発揮し、米国が再び偉大になれば国民も異論はないだろう。だが、その部分も雲行きが怪しくなりつつある。理由の一つは味方である共和党の分裂、もう一つは人事の遅れだ。

 就任後、矢継ぎ早に大統領令に署名したトランプ氏。「これほど短期間に成果を上げた大統領はいない」と自画自賛、実行力をアピールしている。だが、政策実現の焦点が法案審議のフェーズに移るにつれて、その勢いは減速しつつある。ポピュリズム的な政策と現実とのせめぎ合いが始まったためだ。それは、オバマケアの撤廃・置き換えを巡る議論に端的に表れている。

 オバマケアの撤廃は、同法が成立して以来、共和党が主張している宿願ともいえる政策だ。13年に政府機関が閉鎖されたのも、元をただせば、翌年から始まるオバマケアの予算案に共和党が反対したことが原因だ。それだけに、共和党のトランプ氏がホワイトハウスの主となった現状はオバマケアを撤廃するまたとない好機だが、撤廃後の代替案を巡って共和党内が割れている。

 最大の誤算は保守強硬派の抵抗だ。オバマケアを蛇蝎のごとく嫌っている強硬派は、オバマケアに伴って拡大した連邦支出を削減するよう声高に主張してきた。

 トランプ氏も「破滅的」なオバマケアの撤廃と置き換えを進めると述べている。しかし、その一方で労働者の守護神を任じており、既に保険に加入している人々の保険内容を劣化させることは望んでいない。

オバマケアの代替案を発表したライアン下院議長。この案は保守強硬派の批判を招いている(写真=Tom Williams/Getty Images)

 ポール・ライアン下院議長など共和党指導部もオバマケアの撤廃を最優先課題としているが、保険内容を劣化させる代替案を導入すれば政治的な打撃が甚大なことは理解している。民間の保険会社に委ねるだけでは保険料が下がらないことも分かっているだろう。

 そこで、オバマケア批判の一つだった個人や従業員に対する加入義務を撤廃する項目などを盛り込んだ代替案を発表した。低所得者向けの補助金に代わるものとして、年齢や収入をベースにした税額控除も盛り込んでいる。

 ところが、低所得者向けの払い戻し可能な税額控除は補助金と変わらないとして強硬派が反発。中立的な議会予算局(CBO)も、「代替案を施行した場合、現行制度を継続した場合と比べて無保険者が26年に2400万人増える」という衝撃の試算を発表したため、穏健な共和党議員に動揺が広がっている。オバマケアの撤廃という大目標と撤廃がもたらす影響の大きさの間でさまよい、なかなか着地点が見いだせない。

露見した足並みの乱れ

 足元ではティーパーティー運動の流れをくむ下院フリーダム議員連盟も代替案に反対ののろしを上げた。

 それでも、オバマケアの撤廃は共和党が過去4回の選挙で訴え続けてきた選挙公約で、「やらない」という選択肢は存在しない。このため妥協が成立すると見る専門家は多い。ただし、「代替案を支持するか、(18年の)中間選挙で落選するか」とトランプ氏が議員を脅したものの、原稿執筆時点で代替案は下院を通過していない。

 オバマケアの撤廃・置き換えに時間がかかるとほかの主要政策の遅れにつながる。最初の重要政策で露見した共和党内の足並みの乱れは、今後期待されている税制改革やインフラ投資の前途を考えると不吉な兆候だ。

 共和党指導部はオバマケアの撤廃法案を成立させた後、税制改革法案に取り組む意向を示している。現在、ささやかれている時期は6月から7月。ここでも議会の壁が立ちふさがる。

 トランプ氏は選挙期間中、現在35%の法人税率を15%に引き下げるという野心的な公約を掲げた。ライアン氏も、昨年夏に発表した税制改正案で法人税率20%を提案している。

 米国では1986年を最後に抜本的な税制改正が実現しておらず、法人税率はほかの先進国よりも高い。米国外で上げた利益を米国内に配当で持ち帰る際に課税されるため、M&A(合併・買収)を使ったインバージョン(税率の低い国への本社移転)など企業の租税逃れも常態化している。