政権が発足して2カ月あまり、カオスといわれても仕方のない状況にある。ロシア問題や人事の遅れ、共和党の内紛などで看板政策が進まない懸念も。バノン首席戦略官と良識派の綱引きも激しくなっており、まだまだ混沌が続く。

<b>4月に旅行者ビザが切れるコロンビア出身の女性。ビザが切れた後もナッシュビルに住み続けるという(中央)。右はモスクで祈りをささげるナッシュビルのイスラム教徒。入国制限の大統領令はイスラムコミュニティーに衝撃を与えた。左はチームトランプの面々(本人を含む)</b>(写真=左:Drew Angerer/Getty Images、国旗:Starline/Freepik.com)
4月に旅行者ビザが切れるコロンビア出身の女性。ビザが切れた後もナッシュビルに住み続けるという(中央)。右はモスクで祈りをささげるナッシュビルのイスラム教徒。入国制限の大統領令はイスラムコミュニティーに衝撃を与えた。左はチームトランプの面々(本人を含む)(写真=左:Drew Angerer/Getty Images、国旗:Starline/Freepik.com)
[画像のクリックで拡大表示]

 “America First”を旗印に第45代米国大統領の座を射止めたドナルド・トランプ氏。有言実行とばかりに大統領令を連発したが、今のところは混乱の方が目立つ。就任100日までメディアは批判を控えるものだが、大統領令を巡る混乱やロシアに絡む疑惑、根拠不明のツイートなどもあり、メディアも批判の度を強める。政権発足から2カ月強、この政権は何を成し遂げ、どこに向かうのか――。トランプ政権のここまでを振り返る。

 大統領の一撃が米国に与えた影響は想像以上の震度だったようだ。

 米国南部、テネシー州の州都ナッシュビル。この町は移民や難民に寛容な場所として知られている。人口に占める移民・難民の比率は10%超。全米の中で最も移民流入の多い都市の一つだ。

 行政やNGO(非政府組織)などによる手厚いサポート、よそ者に寛容な風土、右肩上がりの経済などが移民の集まる理由とされる。建設現場にはタワークレーンが林立する。好調な経済の背景には移民の存在も大きい。

 もっとも、新政権の発足以降、ナッシュビルには不安が広がっている。

 「ビザが切れた後にどうなるのか。今はとても不安ですね。コロンビアでは安心して暮らせないので……」

 コロンビア出身のロサルバン・カマルゴ氏は4カ月前、家族とともに旅行者ビザで米国に入国した。現在は叔母が切り盛りするケータリングサービスを手伝っている。この4月にビザが切れるが、治安が悪化しているコロンビアに戻るつもりはない。

 イスラム教徒もトランプ大統領に身構えている。

<b>トランプ大統領は1月27日、イスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令に署名した(後に連邦地裁が差し止め命令)。米国の空港は抗議する人々であふれた</b>(写真=Andrew Lichtenstein/Getty Images)
トランプ大統領は1月27日、イスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令に署名した(後に連邦地裁が差し止め命令)。米国の空港は抗議する人々であふれた(写真=Andrew Lichtenstein/Getty Images)

 トランプ政権は1月、3月と相次いでイスラム圏の国々を対象に入国制限を実施するなどイスラムに敵対的な姿勢を取る(2度の大統領令に連邦裁判所が差し止め命令を出した)。特に、最初の大統領令は正規のビザやグリーンカード(永住権)を持っている人にまで影響を与えたため、強い批判を招いた。

 ナッシュビルにはクルド人の大規模なコミュニティーが存在する。ソマリアやスーダンなどイスラム圏の出身者も多い。彼らは、国内のテロ対策というトランプ政権の意図は理解しているが、いつまた入国制限が課されるかもしれず、不安な日々を過ごしている。

本人は「A評価」と豪語……

<b>大統領補佐官(国家安全保障担当)の辞任を余儀なくされたマイケル・フリン氏。ロシアを巡る疑惑はトランプ政権に深刻なダメージを与えている</b>(写真=Win Mcnamee/Getty Images)
大統領補佐官(国家安全保障担当)の辞任を余儀なくされたマイケル・フリン氏。ロシアを巡る疑惑はトランプ政権に深刻なダメージを与えている(写真=Win Mcnamee/Getty Images)

 トランプ政権が誕生して2カ月あまり。本人は政権運営を「A評価」と豪語するが、現実はカオスといわれても仕方のない状況だ。

 入国制限の大統領令や側近だったマイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障担当、当時)の辞任、くすぶり続けるロシア疑惑、バラク・オバマ大統領(当時)がトランプタワーを盗聴していたとする“嘘ツイート”など、毎日のように新たな騒動がわき起こる。

 原因の多くはトランプ氏自身にある。

 「6時間ごとにスキャンダルが起きると、4件前(つまり1日前)のスキャンダルを忘れる」。ジャーナリストのデイビット・ロスコフ氏が米フォーリン・ポリシー誌で指摘したように、新たな火種を投入してトラブルに対する追及の目をそらせるのは同氏の常套手段だ。

<b>「オバマ大統領(当時)が大統領選中にトランプタワーを盗聴していた」という爆弾ツイートを投下したものの、米下院情報委員会は証拠がないと明確に否定した</b>(写真=:Anadolu Agency/Getty Images)
「オバマ大統領(当時)が大統領選中にトランプタワーを盗聴していた」という爆弾ツイートを投下したものの、米下院情報委員会は証拠がないと明確に否定した(写真=:Anadolu Agency/Getty Images)

 同氏に「国民の敵」呼ばわりされたメディアは既に敵対モードに入っている。就任100日までは助走期間ということで手厳しい批判を控えるものだが、現状は同氏の一挙手一投足を批判している印象だ。結果として、ホワイトハウスの混乱は加速している。

 もちろん、米ワシントンやメディアと、トランプ支持者の声は異なる。

 「米国の労働者を助けよう。ヘルスケアや経済、軍隊を立て直そう。学校や空港を作り直そう、という話に誰が反対すると言うんだ?」。デトロイトで金属加工業を営むマシュー・シーリー氏はこう語る。彼はミシガン州下院第14選挙区の共和党代議員で、トランプ氏の選挙運動を支援した熱烈な支持者だ。

トランプ氏をめぐる相克

 シーリー氏の会社は自動車部品メーカーや軍に金属製のフックを納めている。最盛期は25人の従業員を抱えたが、NAFTA(北米自由貿易協定)の影響で5人まで減った。その後、2008年の金融危機で建設用フックの需要が大きく減退。軍の調達品市場に活路を見いだしたが、オバマ政権下で軍事予算が削減されたため大打撃を受けた。

次ページ 露見した足並みの乱れ