離脱をめぐる英国との交渉を間近に控えたEU。その中心を成す蘭仏独で重要な選挙が続く。いずれの国でも極右政党が躍進し、反EUの勢いが一段と強まる可能性がある。EUは結束を維持できるのか。まずは3月15日のオランダ下院選挙が今後を占う試金石となる。
オランダの首都、アムステルダムから南東に約80km。起伏の少ない低地を横目に1時間ほど電車に揺られると、広大なキャンパスにたどり着く。
ヘルダーラント州にある国立ワーヘニンゲン大学は、米国に次いで世界2位の農畜産物輸出額を誇るオランダの「頭脳」と呼ばれている。食料と農業に関する最先端の研究拠点として世界的に知られており、99カ国から優秀な学生が集まる。
グローバル企業も同大学との連携を重視する。食品の世界大手、英蘭ユニリーバは昨年、欧州の研究開発拠点を2019年までにワーヘニンゲンに集約する計画を発表した。
最近、この大学に変化が起きている。オランダで研究を続けたり、就職したりすることに不安を覚える留学生が増えているのだ。
「反イスラムの雰囲気が、これまでになく高まっている」。ある留学生はこう漏らす。この学生は2年前、農業技術を学ぶため、インドネシアから同大学に入学した。植民地と宗主国というかつての関係から、同大学にはインドネシアからの留学生が少なくない。その多くはイスラム教徒だ。
「このまま居てもオランダが私たちを受け入れてくれるか分からず、将来が不安だ」。この学生は顔を曇らせる。イスラム教徒の学生の多くが同じ不安を抱き、母国に戻ったり、欧州の他の国で就職する方法を模索したりしている。
オランダ経済は、11年のユーロ危機に端を発した苦境を脱しつつある。16年の失業率は6%で、ユーロ危機前の水準をほぼ回復。17年の実質経済成長率見通しは2%と、ユーロ圏19カ国平均の1.6%を上回る。企業の採用意欲が今後高まるとみられる中で、優秀な人材がオランダでの就職を敬遠するのはこの国にとって痛手だ。
「イスラム移民を入れるな」

「オランダを我々の手に取り戻す」。2月18日、ロッテルダム郊外で、反イスラムの主張を声高に繰り返す人物がいた。ヘルト・ウィルダース氏、53歳。極右政党、自由党の党首である(上の写真)。トレードマークの白髪をかっちりと固めた同氏はこの日、3月15日投開票の下院選挙に向けた運動をスタートさせた。
3月15日に予定されている。150議席を比例代表制の下で争う。各政党は有効得票数の0.67%を獲得すると、1議席確保できる。現在の第1党は、マルク・ルッテ首相が党首を務める自由民主国民党(41議席)。第2党の労働党(38議席)と連立政権を組む。今回の選挙は、サイバー攻撃を警戒して、開票集計はすべて手作業で実施する。コンピューターは使用しない。
●オランダ下院選挙の流れ(前回との比較)

前回(2012年)
- ユーロ危機後の経済立て直し
- 雇用の創出





今回(2017年)
- 移民問題
- 社会保障のあり方
- オランダ人の価値観の維持
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