工場のIoT化を本格化

 生産では工場のIoT(モノのインターネット)化を進める。トヨタは愛知県豊田市の高岡工場で2016年前半から30以上のIoTの実証試験に取り組み始めている。生産ラインに多数のセンサーを取り付けて工程ごとにデータを自動収集して解析。生産性の改善を次のレベルに引き上げるために、効果を精緻に測定し、効果が実証できた技術は世界の工場に展開していく。

 同工場では生産ラインの各工程でデータ収集を自動化、各工程間のデータ連携に発展させる。さらに「金型の摩耗」や「ねじのゆるみ」などの設備の状況をデータで把握し、そこから変化の兆候をつかんで将来を先読みする。

 生産ラインではAIの機械学習も活用。画像認識などの技術などを使い、人間では発見が難しい微妙な塗装の色の違いなどの判別に役立てようとしているほか、産業用ロボットの故障の事前検知にも活用しようとしている。

 とりわけ最先端のクルマを生産する工場で機械学習を取り入れる考えだ。例えば、FCV(燃料電池車)やEV(電気自動車)を生産する工場。「FCVやEVは分かっていないことが多く、長い時間をかけて(人間が)検証すると競争力が足りなくなる。機械学習を使うことで課題を早く解決していきたい」(トヨタの大倉守彦工程改善部長)。

現場の人づくりも再強化

 トヨタは製造現場のデジタル化を進める一方で、アナログ的ともいえる製造現場で働く人材の技能水準も、原点に返って鍛えなおそうとしている。かつて生産現場には、何かトラブルが起きた際に、瞬時に問題を解決できる「現場の神様」のような熟練した高度な技能者が数多くいた。

 だが高齢化が進んでリタイアする技能者が増え、問題発生時の対応が難しくなっている。自動化も進み、技能者は機械のスイッチをオン・オフするような単純作業を担当するようになってきた。

 「機械に人が使われるようではいけない。自動化がここまできたのは、“匠”の技能を形式化し、標準化、自動化してきたからだ。人が知恵や工夫を入れて機械を進化させてきた。つまり手作業が原点で、技能と技術が常にスパイラルアップしなければ生産現場のものづくりは進化しない」。生産現場における人材育成の再強化を担当するトヨタ専務役員の河合満氏はこう強調する。

 こうした問題意識から、トヨタの工場では、自動化された組み立てラインを一部変更し、溶接や塗装などで手作業ラインをあえて導入。若手のスキルを磨いている。指導役は、高い技能を持つベテランの技能者だ。

<b>溶接工程での技能者育成(左の写真)。手作業の技能向上に力を入れる。製造現場の人材育成を指揮する専務役員の河合満氏(右の写真)</b>
溶接工程での技能者育成(左の写真)。手作業の技能向上に力を入れる。製造現場の人材育成を指揮する専務役員の河合満氏(右の写真)

ホワイトカラーの働き方も改革

 製造現場に限らない、設計や開発などホワイトカラーの職場も対象にした働き方の改革も加速させる。

 トヨタの製造現場では「悪いものは造らない、次の工程に流さない」を原則とし、「品質を工程で造り込む」という考え方を創業以来重視してきた。だが、それがいつの間にか「心掛け」のみになっているような部分があった。

 これに対して、何百もの工程と要素作業をすべて洗い出し、構造要件、設備要件、製造要件を満たすように、それぞれの部分で改善を徹底する科学的アプローチである「自工程完結」をトヨタは編み出した。この手法は1996年から製造現場で導入してきたが、最近は設計や開発などのホワイトカラー職場への展開を加速させている。

 例えば、設計における品質不具合の再発防止に自工程完結の手法を活用。2009~10年に大規模なリコールを経験したトヨタは、品質向上に力を注いできた。クルマの足回りから異音が発生するという不具合では、防止策として耐久性を評価する際の路面の条件を見直して、厳しい条件でも品質を維持できるようにした。

 あらゆる工程と作業を詳細に検証することで、品質不具合の再発防止策の進捗を確認する会議では、新たな問題が見つかって仕事をやり直す回数が大幅に減少している(下のグラフ)。

自工程完結で仕事のやり直しを減らす
●再発防止の1案件当たりの平均やり直し回数
自工程完結で仕事のやり直しを減らす<br />●再発防止の1案件当たりの平均やり直し回数

 このようにクルマ造りの様々な部分で変革を進めるだけでなく、トヨタはものづくりを支える組織のあり方自体も見直す。とりわけ大きな変化が2016年4月のカンパニー制の導入だ。

 「大きくなりすぎたことが逆にトヨタの足を引っ張っている」(トヨタの豊田章男社長)という問題意識から、「コンパクト車」「中型車」「レクサス」「先進技術開発」などの製品群別に7つのカンパニーを発足させた。

 各カンパニーは商品企画から開発、生産までを一貫して担当し、クルマ造りに取り組む。それは開発や生産といった機能軸の組織を切り分けることを意味し、トヨタ自動車の歴史において極めて大きな変化となる。

 狙いは意思決定の迅速化だ。各カンパニーのプレジデントに責任と権限を集約。各プレジデントが小さくなった「自動車メーカー」を率いることで、経営のスピード感を高める。

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