年明け早々の市場の混乱で先行きの不透明感が深まった2016年の滑り出し。経営への逆風が強まる中、企業はどのような手を打って活路を見いだすべきか。前号に引き続き、注目の企業経営者や起業家たちの見通しと対策を紹介する。

注目の経営者が語る▶▶▶ 和田 勇氏 積水ハウス会長兼CEO

住宅は斜陽ではなく成長産業だ

 人口減少が進む日本ではこれから先、家はそれほど建たない。住宅産業はもう発展しないと思われがちです。けれど、そんなことは全くありません。

 環境、コミュニティー、安全・安心、高齢化、教育、少子化、地方創生…。日本はたくさんの社会的課題を抱えており、そのほとんどが住宅に関係しています。ここには住宅事業を拡大するための多くのシーズがあります。

<b>和田 勇氏<br/>積水ハウス会長兼CEO<br/>1965年関西学院大学法学部卒業、積水ハウス入社。98年社長に就任。2008年から現職。</b>(写真=陶山 勉)
和田 勇氏
積水ハウス会長兼CEO
1965年関西学院大学法学部卒業、積水ハウス入社。98年社長に就任。2008年から現職。
(写真=陶山 勉)

 私は教育、介護などの問題解決にもつながる住まいの一つの形として、アニメの「サザエさん」に出てくるような、妻の両親との多世代同居が大変有望だと考えています。政府は高齢者の地方移住を促す「日本型CCRC(Continuing Care Retirement Community)」構想を進めようとしています。高齢者が地域に溶け込み、子供、若者などと交流・共働する多世代交流型コミュニティーづくりは力を入れたい分野の一つです。

 良質な保育施設の整備、賃貸型の老人ホーム、国土強靱化のための耐震化なども住宅メーカーが推進すべき取り組みです。2000万人にまで増えた海外からの観光客をこれから3000万人、4000万人と増やしていくには宿泊施設も足りません。

 今、話題のIoT(モノのインターネット)は住宅との親和性が高い分野です。ビッグデータ、AI(人工知能)なども含めた最新技術の住宅分野での活用が大いに期待されます。健康寿命を延ばすため、断熱性能やバリアフリー性能を高めた住宅も求められます。

 住宅は内需の大きな柱です。日本経済再生に向けて、住宅が果たすべき役割は非常に大きいと思っています。

リノベーションを新たな柱に

 一方で、住宅は消費税に大きな影響を受ける産業です。過去、3%の消費税が導入された時には新設の住宅着工戸数が30万戸減りました。消費税率が5%に引き上げられた時には45万戸、8%に引き上げられた時は10万戸減少しています。住宅にとって消費税は重い十字架です。10%に引き上げられる際にはさらに厳しい局面が訪れることでしょう。

 新設住宅を増やすのが難しいならば、ビジネスモデルを変えなくてはなりません。具体的には過去に建てた住宅のストックをビジネスにすることが必要です。

 日本ではだいたい20~25年たつと住宅を壊して建て替えてしまいます。戦後、住宅に累計893兆円もの投資をしてきましたが、現在、資産として残っているのは349兆円のみ。544兆円もの国富が消えてしまった形です。

 消失してしまう部分を埋め、良質な住宅ストックを50年、60年と引き継ぐためには、既存住宅のリノベーションが必要です。我々は今後、ここに注力していきます。

 もう一つ重要なのは環境への対応です。2015年12月に開かれたCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で、我が国は温暖化ガス排出量を2030年までに2013年比26%削減することを公約としています。家の中で消費する電力の比率は国全体の31%を占めています。住宅の省エネルギー化の徹底が求められます。

環境技術を武器に海外展開も

 積水ハウスは1999年に「環境未来計画」を発表して以来、様々な環境対策を講じてきました。2020年までにエネルギー消費量を正味ゼロにできる「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」を新築住宅の80%に普及させたいと考えています。

 ストック住宅に関しても太陽光発電、燃料電池、蓄電池などを付け、断熱性能を高めて、LED(発光ダイオード)を使うことなどで省エネを実現するリノベーションを実施していきます。

 環境技術を生かした世界展開も始めました。現在、米国、オーストラリア、シンガポール、中国の4カ国で事業を進めています。事業を始めて4~5年たつオーストラリアでは、既に宅地7000区画、マンション約1万3000戸を手掛け、積水ハウスの名前がすっかり浸透しました。米国では現在、50カ所でプロジェクトを進めています。  日本人の持つきめ細やかさはどこの国に行っても高い評価を得られます。我々は自信を持ってもっと海外に出ていきたい。住宅事業にはまだまだ拡大のタネがあると思います。

破壊的革新を仕掛ける▶▶▶ 谷口 恒氏 ZMP社長
植草徹也氏 ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター

スピード重視でイノベーションを創出せよ

「破壊的イノベーション」をテーマに話をお聞きします。ZMPはロボット技術をベースに産業界にイノベーションを起こそうとしています。現在の進捗状況を教えてください。

<b>谷口 恒氏<br/>ZMP社長<br/>制御機器メーカーで商用車のアンチロックブレーキシステム開発に携わる。商社の技術営業などを経て2001年ZMPを創業。</b>(写真=陶山 勉)
谷口 恒氏
ZMP社長
制御機器メーカーで商用車のアンチロックブレーキシステム開発に携わる。商社の技術営業などを経て2001年ZMPを創業。
(写真=陶山 勉)

谷口 ZMPは自動運転技術を核に「Robot of Everything」というキーワードで事業を進めています。

 ディー・エヌ・エー(DeNA)と設立した共同出資会社、ロボットタクシーでは、「無人タクシー」の実用化を目指しています。交通弱者を救い、地方創生を実現する意義深い事業だと思います。ソニーモバイルコミュニケーションズとはドローン(小型無人機)の新会社、エアロセンスを立ち上げ、建設現場の施工状況確認や測量、在庫管理などを支援して作業効率化につなげようとしています。台車にロボット技術を適用した物流支援ロボット「CarriRo(キャリロ)」の普及も進めています。

 今までなかったロボット技術を生み出すには新たな価値観を取り込むことが重要と考え、エンジニアの半分を海外から採用しています。東京本社には世界12カ国から多様な教育を受けて多様な価値観を持った社員が集まっています。彼らが化学反応を起こしながらイノベーションを創出することを期待しています。

イノベーションは偶然の出合い

植草さん、そもそもイノベーションを起こす組織にはどんな要件が必要でしょうか。整理していただけますか。

植草 ポイントは3つあります。1つ目は外部化、2つ目は失敗のコストの最小化、3つ目はスモールチームです。

 豪カンタス航空の子会社でジェットスターというLCC(格安航空会社)があります。LCCが勃興した10~15年前、世界中の航空会社がLCCを立ち上げましたが、今も残っている規模の大きなLCCはジェットスターだけです。ジェットスターが他社と違ったのは、カンタスの別会社としてスタートしたこと。旅行客中心のLCCはビジネス客中心の航空会社とは全く違うコスト構造が必要と考えて別組織で対応したのが成功の要因とされています。

ZMPの取り組みも、3つの要件をそろえているように見えます。

谷口 ZMPは大企業と共同出資会社をつくり、社内でやるのは難しいプロジェクトを低予算で人数を絞って進めることが多い。3つの要件に当てはまると思います。

異業種の企業と相次ぎ手を組む
●ZMP提携の歴史
異業種の企業と相次ぎ手を組む<br/>●ZMP提携の歴史

 例えばソニーと手掛けているドローン事業は互いに5人ずつ社員が集まり、事業の可能性を検討したのが始まりです。半年ほどで当初の期待値を超え、ビジネスになりそうだと確認できたので、資本金を出し合って会社をつくりました。ほかの大企業とのプロジェクトも、初めは2~3人の社員が派遣されてきて一緒に進めるという形が多いですね。

 少人数の派遣ならCEO(最高経営責任者)やCTO(最高技術責任者)のトップダウンですぐに話はまとまります。いきなり数億円規模の大きなプロジェクトを動かそうとすると、事業計画を作り、予算を立ててと身構えてしまいますが、少人数で数千万円を折半するような形ならさっとスタートできます。

植草 最初にドカンと大きなお金を投入しないというのは非常に大切なことです。コンサルティングを手掛ける中で感じるのは、結局、イノベーションとはセレンディピティー、偶然の出合いであるということ。ならば数多く打席に立つ人の方がイノベーションというヒットを打つ確率が高くなります。たくさん打席に立つには1回当たりのコストを小さくしなくてはなりません。

大企業と一緒にプロジェクトを進めていくと、既存の事業や技術と競合することも出てくると思います。どのように調整していますか。

谷口 先方の技術の方が優れていれば、そちらを活用します。自前にこだわると事業の進行が足踏みしかねませんから。プロダクト、サービスをいち早くつくることこそ重要。手段にはこだわらない方針です。

<b>植草徹也氏<br/>ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター<br/>米南カリフォルニア大学でMBA(経営学修士)を取得。電通、BCGダラスオフィスを経て現在に至る。</b>(写真=陶山 勉)
植草徹也氏
ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
米南カリフォルニア大学でMBA(経営学修士)を取得。電通、BCGダラスオフィスを経て現在に至る。
(写真=陶山 勉)

植草 自前にこだわらないのは重要なポイントです。米アップルは「iPod」「iPhone」「iPad」などイノベーティブな製品で人々の生活を変えてきましたが、実は外部企業に委託して製品を設計するなど、必ずしも自前技術にはこだわっていません。一方で「iTunes」のような一種のエコシステムをつくるところは自分自身で手掛け、キャッシュを得ています。

 私たちは全ライフサイクルにおける累積キャッシュフローの経時変化を描いた「キャッシュカーブ」という曲線を、イノベーションをマネジメントするツールとして活用しています。そこからは、イノベーションを十分なリターンにつなげるためには開発期間の投資コストをなるべく小さくすることが必要であることが分かっています。

失敗恐れず面白半分にやる

大企業と一緒にプロジェクトを進める機会の多い谷口さんから見て、イノベーションを創出したい企業は何に気を付けたらよいと思いますか。

谷口 何よりスピードを重視すること。もう一つは今までやってきたことにこだわりすぎないこと。一見関係ないように思えることでも、面白半分にやってみると視野が広がります。

 とにかく、「やる」と決めて実行することが大切です。小さな失敗はたくさん出ると思いますが、恐れずにどんどんやる。こうして新しい技術や価値観を取り込む中で生まれてくるものが必ずあります。失敗を軌道修正していくことで進むべき道が見つかります。

逆に大企業ならではの強みはどういう点ですか。

谷口 やはり資本力です。いざという時に思い切った投資ができるのは強い。人材も粒よりですね。大企業が我々の会社に人材を派遣する際には、「知識やスキルの高いエース級を送り込んでください」とお願いしています。

 彼らはベンチャーの独特の環境に入ることによって、「自分の技術力を試したい」「世の中にないものを生み出したい」という潜在的な欲求が刺激されるのでしょう。さらに生き生きと力を発揮してくれます。

では、企業が外部で生まれた破壊的イノベーションを取り込んで力としていくにはどんな要素が必要ですか。

破壊的イノベーションを起こす
●大切な3つのこと
破壊的イノベーションを起こす<br/>●大切な3つのこと

植草 150年ほど前の話です。フランスの帆船メーカーは蒸気機関という当時の破壊的な技術に直面し、帆船に蒸気機関を搭載するというハイブリッド型のフリゲート艦を造りました。内水では蒸気機関で、外洋に出た時には帆を広げて航海するスタイルにしたのです。後に、蒸気機関の性能がさらに向上した時には帆を付けるのをやめて、完全に蒸気機関船にしました。

 このように、破壊的なイノベーションに直面した企業は、既存の技術と何とか融合しようと動くものです。これは間違った方向ではありません。ただ注意すべきは、既存の技術はいずれ破壊的な技術に追い抜かれ、不要になるタイミングがやって来るということ。新しい技術にも投資しておかなくては、足をすくわれる可能性があることを意識してほしいと思います。

聞き手=熊野 信一郎

働き方を革新する▶▶▶ 曽山哲人氏 サイバーエージェント執行役員 人事統括本部長
内田有希昌氏 ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター

創意工夫を凝らして多様な人材を生かす

人事管理、働き方などをテーマに議論を進めていきます。まずは人材の需給バランスなど、今の採用状況を教えてください。

<b>曽山哲人氏<br/>サイバーエージェント執行役員 人事統括本部長<br/>上智大学卒業後、1999年サイバーエージェントに入社。2005年人事本部長に就任。2015年3月から現職。</b>(写真=陶山 勉)
曽山哲人氏
サイバーエージェント執行役員 人事統括本部長
上智大学卒業後、1999年サイバーエージェントに入社。2005年人事本部長に就任。2015年3月から現職。
(写真=陶山 勉)

曽山 景気が上向き、IT(情報技術)投資が活発化しているため、IT関係のエンジニアは需給が逼迫し、採りたくても採れない状況が続いています。大学生向けに無料講座を開き早期に囲い込むなど独自の採用活動が必要になっています。派遣の事務スタッフも全体的に不足気味。時給を上げてほしいという要望も増えています。

内田 最近は流動化が一層進み、隣に座っていた社員が突然、会社を去ることも出てきています。また、若者の価値観が変化し、仕事より個別の事情やプライベートを優先する場面も増えてきました。従来のように「みんながいつもより少し頑張る」ことで人手不足をしのぐのは難しくなっています。数字的にも感覚的にも人が足りない状況はこれからも続くでしょう。

曽山 量的な不足感に加え、質的な不足感も強まっています。どこの会社もエース級の人材、イノベーション人材が欲しい。他社からそういう人材をスカウトしようとする動きも盛んです。若者の側も積極的にチャレンジしようと転職のチャンスをうかがう人が多い。企業にとっては、採用した後の人材をいかにフォローできるかという「リテンション」の争いも激しくなっています。

量的にも質的にも人材が不足する中、企業の人事制度にも工夫が求められます。サイバーエージェントはユニークな人事制度を数多く取り入れていることで有名ですね。

曽山 様々な人事制度をメディアに取り上げていただく機会がありますが、私たちが一番力を入れているのは企業の変革を仕組み化すること。産業の変化が激しくなる中、組織の柔軟性を高めて自ら変わっていかなくては勝ち残れないと考えています。

 そのための制度は2つ。一つは「あした会議」。取締役8人がサイバーエージェントの未来につながる新規ビジネスや改善を提案するものです。自分の担当分野以外から提案するルールなので、結果的に今の経営の問題が洗い出されるメリットがあります。

 もう一つは「CA8(シーエーエイト)」。取締役8人を2年に1回、2人入れ替える仕組みです。経営の透明性を高めることと若手を育てることが狙いです。いずれも経営トップこそが率先垂範して企業を変革すべきだという考えに基づいた制度です。

タレント維持には寛容さが必要

トップ層に刺激を与える制度というのが面白いですね。一方、企業にとっては女性、高齢者、外国人など多様な人材を戦力化することも重要な経営課題です。社員の働き方にも配慮が必要ですが、どう対応していますか。

曽山 サイバーエージェントには正社員が3500人いますが、この数年でママ社員が100人ぐらいまで増えました。彼女たちのリクエストはバラバラで、いきなりすべてを制度で対応するのは難しい。一人ひとり、困りごとに対して「これはOK」「それはできない」「こうならできるよ」と個別対応を心がけてきました。

 100人に広がると共通の悩みも出てきますので、必要なものは制度化しています。例えば、入学式、参観日などの学校行事に半日休める「キッズデイ休暇」を創設するといったことです。

<b>内田有希昌氏<br/>ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター<br/>米カーネギーメロン大学経営大学院でMBA(経営学修士)取得。三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)を経て現在に至る。</b>(写真=陶山 勉)
内田有希昌氏
ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
米カーネギーメロン大学経営大学院でMBA(経営学修士)取得。三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)を経て現在に至る。
(写真=陶山 勉)

内田 価値観が多様化している働き手の力をどう結集するかは、企業や業界によって様々な解があり得ます。

 私の会社では「自分は旅人である」というアイデンティティーを持ち、「2カ月間旅に出たい」と希望する社員が退社を申し出てきたことがあります。彼はある分野のエキスパートでしたが、従来のままの制度では引き留めることができません。そこで、新たに1日単位ではなく、1年単位のフレックスワーキングを導入しました。つまり10カ月間はがむしゃらに働き、2カ月休むという働き方を認めたのです。

 多様な働き方を認める寛容さがなければ多様なタレントを維持できません。昇進・給与の調整なども含め、企業側には様々な工夫が必要です。

人材育成に関してはどんな施策を講じていますか。

曽山 私たちは米国などのグローバル企業を参考にして、将来のリーダー候補生を集めた「タレントプール」の形成を進めています。2年前、社内にヘッドハンター部門をつくり、将来の経営幹部候補となる人材のリスト化を始めました。画一的に全社員を育てるのではなく、リストに挙げた人材に関しては個別に育成することを意識しています。

 キーワードは「決断経験」。市場価値が高い人材はみな良質な決断経験を持っています。リストに挙がった人材に関して、「彼らは今、重い決断を下せる場所にいるか」をチェックしながらキャリア形成を考えています。

内田 「社内にどんな人材がいるか」を明らかにした人材マップを作っておくことも重要だと思います。社員に「何ができるか」「どんな経験をしたか」を振り返る履歴書を書かせ、それをマッピングすることで会社側は人材の能力の棚卸しができます。

 社員が明らかな専門性を持っていれば、会社に「こういう働き方をしたい」という主張もできるでしょう。組織になくてはならない能力であれば、会社側もそれを許容できる。うまく歯車が合えば多士済々な社員が自由闊達に能力を発揮できる組織が構築できます。

企業文化の浸透も有効

企業がそうした多様な人材を束ねる時のポイントは何でしょうか。

内田 今の若者は「誰かについていきたい」という面も意外と強い。会社の価値観を注入し、会社のカラーで染め上げることも必要だと思います。

曽山 まさに、今お話のあった企業文化こそが、これからの時代に求められる要素だと思います。当社は新卒の採用を非常に重視しています。まっさらな状態で入ってサイバーエージェントのカルチャーに溶け込んでもらい、一緒に戦ってもらう。そういう社風づくりを大事にしています。

人材や働き方が多様化するからこそ、仕事をする際にベクトルをそろえることが重要なのですね。では、その時にリーダーにはどんな才能、才覚が求められますか。

企業には様々な工夫が求められる
●多様な人材を育て生かすためのポイント
企業には様々な工夫が求められる<br/>●多様な人材を育て生かすためのポイント

内田 会社は何のために存在しているのか、どんなことをしようとしているのか、「パーパス(purpose)」「アスピレーション(aspiration)」を明確にすることです。どんなに多様な立場にある人たちでも、これらを持つリーダーには引き付けられるはずです。

曽山 キーワードは2つ。「才能の開花」と「信頼関係」です。社員に、「この会社に入り、このリーダーの下で働いたからこそ才能が開花し、最大限のパフォーマンスが発揮できる」と思ってもらえるような環境をつくれば、社員が簡単に会社を離れることはないでしょう。イノベーションを求める会社の間では、才能開花競争が激化するはずで、リーダーにはそういう能力が求められます。

 またSNS(交流サイト)の普及で、経営者の見えないところで社員は様々なコミュニケーションを取り合っています。知らぬ間にすべてが筒抜けになる中で、どこを向いてもウソがないと信頼してもらえる関係をつくれるか。このあたりがカギになると思います。

聞き手=谷口 徹也/日経BPビジョナリー経営研究所上席研究員

注目の起業家が説く▶▶▶ 森川 亮氏 C Channel代表取締役

変化の姿勢貫き新たな価値を提供

 子供の頃から音楽が好きで、五木ひろしさんやピンク・レディーのバックコーラスを務めたり、バンドでドラムを担当していた私は、音楽の仕事に関わりたいと当時、歌番組を放送していた日本テレビ放送網に就職しました。

 ところが、大学でコンピューター工学を学んでいたこともあり配属はコンピューターシステム部。財務システム開発、報道のデジタル化、選挙番組の仕組みづくり、視聴率の分析システム開発などを手掛けました。その後、新規部署に移ってインターネットビジネス、衛星放送、国際放送などにも携わりました。次第に新規事業に前向きな会社で仕事がしたいと思うようになり、2000年ソニーに転職しました。

<b>森川 亮氏<br/>C Channel代表取締役<br/>1989年日本テレビ放送網入社。ソニーを経て2003年ハンゲームジャパン(現LINE)に入社。2007年社長に就任。2015年4月から現職。</b>(写真=陶山 勉)
森川 亮氏
C Channel代表取締役
1989年日本テレビ放送網入社。ソニーを経て2003年ハンゲームジャパン(現LINE)に入社。2007年社長に就任。2015年4月から現職。
(写真=陶山 勉)

 ソニーでは戦略部門に入り、テレビとオーディオをインターネットにつなぐ提案をしました。しかし、「端末のコストが高くつく」「ソニー独自のネットでなければつなげられない」といった反対意見があってうまくいきませんでした。その後、トヨタ自動車、東京急行電鉄とつくった共同出資会社でブロードバンドコンテンツをケーブルテレビや光ファイバーで配信する事業を担当しました。3年で売り上げ20億円まで拡大しましたが、大企業で新規事業を手掛ける難しさを痛感する面もあり、2003年に創業3年目だったハンゲームジャパン(現LINE)に移りました。

 勤め始めてしばらくたった頃、当時の社長に呼ばれ、事業責任者を任されることになりました。幸い私が責任者になってから3年で2億円だった売り上げは80億円ほどに拡大。2007年に社長に就任します。検索サービス「NAVER」の立ち上げ、ライブドアの買収などで、2010年には売り上げは200億円ぐらいまで伸びました。

組織改造で常に挑戦を課す

 その間に、スマートフォンが登場。「これからはスマホの時代だ」と確信した私は、約1500人の社員の半分をスマホ担当に据えました。積極的にスマホ市場を攻めていこうとした直後に東日本震災が発生。それがコミュニケーションアプリ「LINE」を生み出すきっかけになりました。LINEの普及でさらに売り上げは伸び、2014年には800億円ほどに到達しました。

 事業では良い結果が出せましたが、マネジメント面では苦労も味わいました。韓国資本が入っていた会社でアジア新興国出身の外国人社員も多く、日本人社員との間でチームワークを発揮させるのは容易ではなかったのです。

 インターネット産業の激しい変化にさらされながら、ダイバーシティー(多様性)の環境の中で結果を出すことに悩みは尽きず、様々な本を読みました。そして、いつの時代も「今の時代は前の時代より変化が速い」と言われ続けていることに気付きます。つまり、変化には加速度が付いているということです。インターネットやSNS(交流サイト)の普及で様々な情報が一気に世界中に拡散するようになったことで変化速度が速まっていると感じました。

 私はこの変化のスピードに乗り、ダイナミックに変われることを強さにできるような経営をしなくては生き残れないと考えるようになりました。

 規模の大きな企業の場合、事業計画や企画書を作り、会議で議論を繰り返し、見積もりを取って…と新しいことを始めるには3カ月くらいは必要です。IT(情報技術)の世界では3カ月後には大きく景色が変わってしまいますから、これでは何も生み出せません。カギはどれだけ早く動けるか。変化の波をとらえ、とにかく早く動き始め、動きながら変えていくやり方が求められます。生物の歴史を振り返れば、大きな変化があった時に生き残る種は強い種でも賢い種でもなく変化に対応できた種です。会社も同じです。

 そんな思いから、私は社長就任後、様々な改革を行いました。最初にやったのが全社員の給料をリセットすること。顧客に価値を提供している人を高く評価し、優先的に配分する形にしました。

 売上高が80億円まで伸びた時、福利厚生を充実させ、きれいなオフィスに引っ越しました。満ち足りた状態になった社員たちは結婚し、子供を産み、あまり仕事をしなくなりました。そして会社の成長は鈍化しました。

 一方で、会社には新たに優秀な人材がどんどん入ってきました。新しく入った人に比べると、古くからいる人は活躍をしていないのに給料が高い。こういう状況に強い矛盾を感じ、顧客が求めることに最大限応える人に多くの給料を支払うようにしたのです。

 同時に、イノベーションを起こし、新しい商品を生み出す仕掛けも講じました。商品や事業のサイクルが短くなると、常にヒット商品、ヒット事業を生み出し続けなければ会社は回らなくなります。ところが、社員には新しいことに挑戦するより、今一番もうかっている事業でそこそこやっていた方がハッピーだという感覚があります。

 そこで、構造的に組織を改革しました。今あるものをオペレーションして磨き上げる部署と、新しいものを作る部署とに分け、磨き上げる部署はすべて中国に移転したのです。バージョンで言うならば1.01、1.02に更新するような改善の仕事は中国に移し、バージョン2、3に伸ばすような新しい価値を提供する仕事は日本に残しました。日本で働く社員には常に新たな挑戦をして結果を出すことを求めました。定例会議も廃止しました。変化が激しい環境では1週間で状況ががらりと変わることも十分あります。定例会議まで待つのではなく、必要な時に会議を開くスタイルにして決定のスピードを速めました。

<b>C Channelは旅行ガイドに置き換わるような新たな動画サービスを目指す</b>
C Channelは旅行ガイドに置き換わるような新たな動画サービスを目指す

今の延長線でない未来を創る

 私は日本企業の社員が、動物園に飼われている動物のように野生を失っているのではないかという危機感を持っています。変化がなく、守られた環境の中にいて決まった時間には餌がもらえる暮らしであれば、ライオンも闘争心がなくなります。これからますます変化が速くなると、恐らく今の会社のメーンの事業のほとんどは、別の何かに置き換わるでしょう。野生のライオンのような嗅覚で次にメーンとなる事業を取りに行かなくてはなりません。

 企業内では、こういう野生のライオンのようなタイプの社員は「協調性がない」とあまり評価されません。しかし、新しい価値をつくるのは、ある程度内部でぶつかることがあっても、自分で信念を持って何かを生み出す人です。そうした人材が活躍できる場をつくることが大事です。

 私は2015年春にLINE社長を退任し、C Channelという新会社を設立しました。現在、女性のための動画マガジンというコンセプトの事業を手掛けています。既に世界の総勢100人ぐらいの人気モデルやタレントが撮影した動画をアップしています。2016年は女性の興味が高いヘアメークやコーディネート、料理などの分野を動画ならではの見せ方でハウツーが分かるようなコンテンツを強化します。そして自社メディアだけでなく今のトレンドである分散型メディア展開を日本のみならずアジアへ幅広く展開し、新たなメディアの時代を先導したいと思います。

 スマホが生まれてから、エンターテインメント産業は激変しました。今や誰もがスマホで音楽を聞き、ゲームを楽しんでいます。スマホで映像を見る時代も確実にやってくるはずです。

 私は多くの新規事業を手掛けてきました。その都度、「今までと違うからうまくいかない」と言われ続けてきました。けれど、「今までと違う」ことでなければ新しい価値にはなり得ません。

 今の延長線上ではない理想的な未来を創ること。日本の技術やアイデア、経験を基に世界に先んじてイノベーションを創出することが大事です。日本を元気にする新しい産業を生み出したいと思っています。

構成=小林 佳代/ライター・エディター

不確実性増大、「想定外」に備えよ

 企業を取り巻くリスク、不確実性は増大しています。2015年11月に仏パリで起きた同時多発テロは、企業が想定外の事態を念頭に、どう経営していくべきかを改めて考えさせる出来事になりました。

 背景には経済のグローバル化とテクノロジーの進化があります。一部のプレーヤーが覇権を取ると、次の日には違う新たなプレーヤーが出てくる。常に業界の秩序を乱すような動きが生じます。経営者はその動きをウオッチしながら、戦い、もうけることを考えなくてはなりません。

 ナシーム・ニコラス・タレブ氏の『ブラック・スワン』という本があります。17世紀にオーストラリアで黒い白鳥が発見され、「白鳥は白い」という常識が崩れました。ここから、事前にほとんど予想できず、起きた時の衝撃が大きい事象のことを「ブラック・スワン現象」と呼ぶようになります。

 ただ、ブラック・スワン現象が起きるのは我々の想像力が足りないからと見ることもできます。いつ、どんなプレーヤーが進出してくるか分からない時、従来のパラダイム、今までの前提で計画を立てるやり方を続けていると、足元をすくわれてしまいます。

<b>佐々木 靖氏<br/>ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター<br/>英LSEで修士(MSc)、仏INSEADでMBA(経営学修士)を取得。日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)を経て現在に至る。</b>(写真=陶山 勉)
佐々木 靖氏
ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター
英LSEで修士(MSc)、仏INSEADでMBA(経営学修士)を取得。日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)を経て現在に至る。
(写真=陶山 勉)

発生確率低くてもシナリオを作る

 不確実性が高い中で企業を運営するツールにシナリオプランニングがあります。想定外を想定外のままにせず、仮に起きた場合、自社にどんな影響があるかを突き詰め、取るべきアクションを定めておく方法です。

 一つの好例が1980年代の欧州の石油会社による北海油田開発です。当時は巨大な天然ガス資源を持つ旧ソ連の動向がエネルギー市況を左右していました。その企業は発生確率は極めて低いと認識しつつ、ソ連で民主化が進み、欧州へのガス供給が起きると想定したシナリオも立てました。

 結果として、こういうシナリオがあったことで同社は北海油田への過剰投資を抑えて、投資効率を上げることができました。ベルリンの壁の崩壊、ソ連解体のずっと前に民主化を念頭に置いていたということは、想定外を考える上で非常に参考になる話だと思います。

 パイロットは霧の中などで上下左右が認識できなくなる「バーティゴ(空間識失調)」という状態に陥ることがあります。こういう時は目の前にある計器を頼りに判断するのが絶対的な対処方法。パイロットたちは「自分の直感を信じるな」と教えられるそうです。仮に我を失った時に見るべき計器や指標は何か、何をよりどころとするかを日頃から定めて経営していくことが重要だと思います。


日経ビジネス「徹底予測フォーラム2016」での対談や講演を編集しました。

日経ビジネス2016年1月25日号 48~55ページより目次

この記事はシリーズ「SPECIAL REPORT」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。