東京では来年初めにも、タクシーの初乗り運賃が400円台に下がる見通しだ。安全性の高い新たな車両の登場も控え、東京五輪に向けて顧客体験の向上を目指す。旗振り役である川鍋一朗氏は、タクシービジネスの潜在力にかける。
(聞き手は 本誌編集長 飯田 展久)
PROFILE
[かわなべ・いちろう]1970年東京都生まれ、46歳。93年慶応義塾大学経済学部卒業。97年ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA(経営学修士)取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー・日本支社を経て、2000年日本交通に入社。2005年に創業家として3代目代表取締役社長に就任。2015年10月より現職。東京ハイヤー・タクシー協会会長、全国ハイヤー・タクシー連合会副会長を務める。
初乗り運賃、新型車両など劇的な変化が次々と。
今後数年でタクシーの利用客は増加に転じる。
問 世界のタクシー業界のライバルとして、配車アプリ大手の米ウーバーテクノロジーズが台頭しています。海外で使った人からは「便利なのになぜ日本で普及しないのか」という声も聞きます。川鍋さんはウーバーの配車サービスを使ったことはありますか。
答 もちろんありますが、2年ほど前から、私のアカウントが使えなくなってしまいました。ウーバーにはコールセンターがないのでメールを送りましたが、困りました。我々のタクシー事業では、道でお客様が手を挙げたら、もちろんお断りはできないのですが。
ウーバーは大多数のエンジニアの力を集めて作っているアプリであり、投資家から資金が集まっているのは素晴らしいと思います。ただ、米国や中国、インドではスムーズに使えても、普及していない国も多くあります。今後、残るとしても、名声を独り占めするような状況にはならないのではないでしょうか。そうは言っても、負け犬の遠吠えになるので、我々は自社で開発した『全国タクシー』という配車アプリを普及させようとしています。
ライドシェアから学ぶ点はある
問 川鍋会長は全国のタクシー業界団体の副会長でもあります。「全国タクシー」のアプリに、全てのタクシー会社が加わるようにしたいのですか。
答 そうですね。しかし、業界にも反・川鍋派がいて、『生意気だ』と日々言われます。その中でも3~4割の方は『しょうがない。川鍋君にしか作れない武器で、一緒に戦おう』と言ってくださっています。全国約24万台のうち、当社のアプリに約4万台、全体の16~17%入っていただいています。今後1~2年で、2~3割の6万~7万台ぐらいまでいくでしょう。
我々の間でタクシーの色が黄色だ、緑だと戦っている場合ではなく、タクシーの正当性を世の中に訴えていく段階です。ウーバーのようなライドシェアとタクシー、どちらがいいのかというビジネスモデルの戦いだと思うんですね。『タクシーは派手じゃないけどいいよね』と言ってもらえるような価値を作っていきたいと思います。
問 一般の人が運転手となって稼ぐライドシェアは、日本では現状、合法ではないのに、どうしてライバル視するのですか。
答 色々な人に聞かれて、やや意識過剰になっているかもしれません。アプリの使い心地や、ある程度事前に運賃が分かるなど、彼らから学ぶべきことは学ばないといけないと思っています。
業界団体として、これからのタクシーが取り組んでいくべき施策を11項目挙げて、実現に向けて動いています。タクシーの相乗りも合法化できるように、同業の何社かで国土交通省と話しています。ほかにも、アプリで行き先を入れて、例えば運賃が表示されたら、途中で渋滞があったり、回り道したりしても、それより高い運賃は頂かないという『事前確定運賃』も検討しています。また、来年1月か2月には東京の初乗り運賃(約1km以内)が、730円から400円台になる見通しです。
問 それはインパクトがありますね。ですが、駅でずっと待っていたタクシーに乗って短距離で降りると申し訳ない気持ちになります。ドライバーは「これだけ待って初乗りか」と思う人が多いのでは。
答 運転手に改定の意味を理解してもらう必要があります。初乗り410円の実証実験を今年8~9月の約6週間やったのですが、乗った人の3分の2が、『今までよりも利用が増える』と回答しました。実験した新橋駅は、銀座三越や歌舞伎座、虎ノ門ヒルズへ2km以内です。ちょっと移動するときに便利ですし、運転手も新橋から、例えば銀座4丁目の銀座三越に行ったところで、そこにもお客様がいますから、長距離で稼げなくてもいいのです。
東京のタクシーの初乗り運賃は、これまでずっと上がってきて、初めて運賃を戦略的に考えたわけです。変えるなら最大でもワンコイン、できれば400円台の下の方と考えました。今回は“組み替え”と称して、初乗りが下がる分、2kmより先では、今より少し高くなるイメージです。長距離では経費で乗られる方が多いので、プライスセンシティビティーはやや低い一方、近距離では自腹の方が多いのです。今は初乗りで730円払って、1kmで降りていた方は負担が多い問題もありました。それにロンドンやニューヨークといった都市に比べて、東京の初乗り運賃は高かった。それが国際標準になるわけです。
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