内需縮小や新興国メーカーの台頭などにより、主力だった石油化学製品が不振に陥った。10年に及ぶ構造改革で、自動車やIT向け先端素材にシフト、市場開拓にまい進する。巨大なライバルに対抗するため、業界再編も必要と説く。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)
PROFILE
[おち・ひとし]1977年、京都大学大学院修了、三菱化成工業(現三菱ケミカル)に入社。主にアンモニアなど無機化学品を担当。2007年に三菱ケミカルホールディングス執行役員・経営戦略室部長になり、小林喜光前社長(現会長)とともに経営改革に取り組む。12年、三菱レイヨン(現三菱ケミカル)社長に就任し、15年4月から現職。愛媛県出身。65歳。

ボリュームで稼ぐのではなく、機能で稼ぐ。
付加価値の高いものを欧米でもっと売らないと。

 問 10年前に経営戦略室部長に就かれ、当時の小林喜光社長(現会長)と一緒になって事業構造改革に取り組んでこられました。

 答 当時の大きな問題としてはやはり石油化学の構造改革をどう進めるかということでしたね。建材などに使われる塩化ビニル樹脂や樹脂原料のスチレンモノマー、ポリエステル繊維原料の高純度テレフタル酸といった、それまで収益の柱だった汎用の石油化学製品が苦しくなった。

 右肩上がりで伸びていた内需が低迷し、我々よりはるかに大規模に汎用化学品を生産する欧米や新興国のライバルとの国際競争が本格化してきたことが大きい。市況に振り回され、業績も安定しないので、こうした汎用化学品からは順次撤退していきました。

 問 化学品の基礎原料であるエチレンのプラントは2014年に鹿島事業所で2基のうち1基を止め、16年には水島地区で旭化成との共同運営に切り替えましたね。

 答 国内のエチレンの生産能力は過剰な状態が続いていて、各社の頭痛の種でしたから、業界にとっては非常にハッピーだったでしょうね(笑)。余剰分は輸出に回してしのぐこともできますが、そんなことを続けるよりは、成長が見込める分野にシフトすべきだと考えました。

撤退に迷いなし

 問 かつて世界シェア2位で収益源だったテレフタル酸は、日本に続いて中国とインドでも事業から撤退しました。年間1500億円程度の売り上げが消えることに迷いはありませんでしたか。

 答 迷いはありません。テレフタル酸は、純粋な装置産業なので、装置があれば作れてしまうんです。当社は独自の触媒を使って作ってきましたが、どんな触媒かは製品を分析したら分かってしまう。中国メーカーの能力増強が相次いで市況も悪化してましたから、僕ははっきりやめた方がいいと思いました。

 問 中国勢は技術的にも追い上げてきていますね。

 答 それは認めざるを得ません。だからこそ我々は、高度な技術が必要な最先端の分野を攻めていかなければなりません。現在、世界の液晶テレビの多くは、中国メーカーが製造しています。しかしパネルを供給しているのは韓国勢。そのパネルに使うフィルムなどの素材は、ほとんどは日本の素材メーカーが提供している。それだけ、製造や加工が難しいからです。

 もっとも、いずれは彼らも追い付いてくると思います。我々は今のうちに先へ先へと素材の機能を進化させていくしかありません。

 問 成長戦略としてはどんな手を打ってきたのでしょうか。

 答 自動車やエレクトロニクスといった分野で使われる付加価値の高い素材へのシフトです。さらに、グループ会社だった旧三菱ウェルファーマと旧田辺製薬を07年に合併して、医薬品事業をもう1つの収益の柱に育てました。

次ページ 強い事業をより強く