卒業資格より実践教育に注力

 問 初年度の生徒数は2000人超。当然、ごく普通の生徒もいるのですか。

VR(仮想現実)技術を使った入学式。ネットで話題を呼んだ(写真=上:陶山 勉)

 答 もちろん普通の子もいます。僕らが驚いたのは引きこもりの子が普通の人なんですよ。会うとしゃべるし、明るいし、友達もいる。でも学校へ行っていません、という子たちがすごく多い。ごく普通の子供がほんのちょっとしたきっかけで、引きこもってしまう。そういう世の中になっているんだなと感じました。

 一方で、レベルが高すぎて学校側がサポートできない、周りの子と合わない。そういう不登校児もいるんですね。例えばN高には、中学時代にプログラミングコンテストの世界大会で上位入賞したり、大学受験レベルの数学が解けてしまったような子もいます。

 だから、そういうスーパーな子たちも満足できる一流の教材と講師を用意しました。ネットに対応した大学受験向けの双方向の教材ではうちが圧倒的に1番ですよ。N高の教育って明らかに未来を見据えているし、レベルが高いというのを、世の中にアピールしたいと思っているんです。

 問 大学受験向けの教材というのは、「N予備校」と名づけた教材アプリのことですね。具体的に、どうレベルが高いのでしょうか。

 答 ネットの双方向の教育に何が必要なのか、一から考えて作られているものは本当にないんですよ。僕らは大学受験向けの参考書を実際に執筆している予備校などの有名な先生を集めて、教材を作ってもらい、生放送の授業にも参加してもらっています。

 さらに、KADOKAWA傘下の中経出版が主体となって講師の選定や教材の作成をしました。だから相当、本格的なものになっています。

 問 実践的ということですね。

 答 はい。そもそも僕らが作っているのは全部、課外授業向けですから。オリジナルの教材は高校卒業資格を得る単位には関係がない。そちらの教材は東京書籍さんのもの。ですから、高校というより、むしろ予備校と専門学校が合わさったような感じですね。

 問 課外授業向けというのは将来の就職につながるような内容なのでしょうか。

 答 そうですね。例えばプログラミング教育の教材のレベルも、たぶん大学を含めてうちが一番高い。就職を目指せるレベルです。実際に正社員として採用したいくらいの生徒を僕らは育てるつもりですので。

 問 そういうレベルの生徒さんが実際にもう出ているのですか。

 答 まだ始めて半年ですが、数人はすぐ採用みたいな感じの即戦力で、うちに面接で来たら普通に通します、というくらいのレベルです。ウェブ企業って本当に人材不足なので、もう1年あれば上位クラスのほぼ全員が職には困らないんじゃないかなと思いますね。

 問 それは相当世の中変わりますね。

 答 変わりますよね。ウェブ企業のエンジニアって理系ではわりと高給な仕事ですよね。それを高校生で達成するって、面白いじゃないですか。

 極端な話、高校を辞めてもいいんじゃないかと。もちろん僕らは高校なので卒業してもらいたいと思っていますが、そういうことを世の中に見せることによって、今の教育の、ある側面が浮かび上がる。それによってN高自体が否定されるかもしれないというところが、面白いですよね。

「いろいろな矛盾を見せたい」

 問 自分でやっていることもいつか矛盾になってしまうかもしれないと。

 答 もう既に矛盾になっているわけですよ。だって僕らは東京大学に行けとか言いながら、一方で高校2年で正社員にさせようとしているわけですから。とにかく、いろいろな矛盾を世の中に見せたいという愉快犯的なところもある。その先にどんな目的が、と聞かれると、すごく困るんですけれども。

 問 それを最後に聞こうと思っていたのですが(笑)。学歴だけではなく、能力、戦力で、きちんと評価される仕組みも作っていきたいと。

 答 そうです。道を踏み外した人たちに元気を出せ、頑張れなんて言ってもしょうがなくて、こうすれば勝てるよ、という具体的な武器を与えてあげたいんです。精神面じゃなくて。

 ただ、学歴偏重の世の中というのはまだ続いていますから、受験のための最適なツールも用意します。そして仕事が欲しいんだったら、少なくともプログラミングであれば就職できるような道も用意しましょうと。

 そうじゃないところに関しても、例えば地方で後継者がいないような職業や企業はたくさんあるんですね。そういうものも、僕らはちゃんと紹介して、体験させてあげようと。

 問 普通の高校にいたらなかなか経験できないことに力を入れている。

 答 ええ、絶対できないですよ。僕らはネット主体の高校ですが、別にネットに移住しろと言っているわけじゃなくて、リアルもやる。文化祭も15万人が集まる『ニコニコ超会議』と相乗りで、初年度はN高生が模擬店を出したり、バンド演奏をしたりしました。どの高校の学園祭よりも客が多い(笑)。そういうできる限り最高の体験をさせてあげたい。

 問 それで、生徒自身に自信をつけさせ、勝てるものを持たせるのですか。

 答 そうです、そうです。人間って与えられた経験が糧になって形成されていくと思うので。自信が持てるものを見つけて、どんどん身につけていきましょうということですね。

 問 先ほどの話の続きになりますが、川上さんは教育をどう変えたいのでしょう?

 答 一つは、ネットでの教育は効率的なんですよ。だから全体の教育レベルを上げることができるし、天才みたいな子たちにも教育の機会を与えてあげられると思っているんですね。

 それともう一つは、これからの時代、リアルのバーバルな(口頭の)コミュニケーション能力がどこまで重要なのかって分からないですよね。不登校の子は、リアルの付き合いが得意じゃなくて、社会からはじき出されちゃったかもしれないけれど、実はその人はネットで連絡を取り合ったら超優秀かもしれない。実際にいますよね。

 そういう子たちというのは、僕らの高校の方が合っている。だから、新しい時代のコミュニケーション能力の高い人間として、むしろ普通の高校よりも優位なポジションに立てるような、優等生みたいな人を作ろうと考えた。