代表監督として、リオデジャネイロ五輪の男子柔道を全階級メダル獲得に導く。過去の失敗を直視し、世界標準の「JUDO」に真正面から挑んで偉業を成し遂げた。日本柔道の完全復活に向け、2020年の東京五輪へと動き出す。
(聞き手は 本誌編集長 飯田 展久)

日本の柔道界はこれまで、質よりも量という面があった。
精神論ではなく、「意味のある努力」をすべきだ。
問 リオデジャネイロ五輪の男子柔道で、日本は金メダル2つを含めて、全7階級でメダルを獲得しました。日本柔道は復活したと考えていますか。

答 「復活という言葉が当てはまるかどうかは分かりません。前年度の世界選手権の結果や、選手たちの能力を踏まえると、もう少しやれたんじゃないかという思いの方が強いのが正直なところです。今回の結果を検証する中で、非常に多くの課題も見つかりました」
問 課題とは具体的に何でしょうか。
答 「技術的、体力的、精神的、環境的なものなど、様々な課題が選手それぞれにあります。2020年の東京五輪までの4年間、これまでと同じような練習に取り組むだけでは海外勢に食われてしまいます。世界のレベルはどんどん上がっているので、これらの課題をしっかりと克服し、プラスアルファの形でやっていかなければ、生き残れないと強く感じています」
問 世界の柔道は年々変化しているのすか。
答 「はい。国際ルールの変更などに伴い、各国が目指す柔道も変わっています。世界標準の柔道である『JUDO』の根底には、各国の格闘技があります。ロシアのサンボ、ジョージアのチタオバ、モンゴルのモンゴル相撲、ブラジルのブラジリアン柔術…。各国はこうした格闘技をルーツに独自の柔道を作り上げている。その複合体が今のJUDOになっているんですね」
「戦いの場で始まった柔術から危険な技を排除することで、武道としての柔道が生まれてきました。柔道が日本発祥であるのは間違いありません。ですが、武道として始まった柔道と、スポーツ化されたJUDOは別物です。我々は柔道の本質、心を見失わずに、JUDOとの戦いに挑んでいかないといけません。継承すべきものは継承し、取り入れるべきものは新しいものを取り入れる。そんな心を持ちながら2つをミックスすることで、より大きな力が生まれると思っています」
問 柔道とJUDOの融合が井上流改革の本質なのでしょうか。
答 「どうなんでしょう。それはほかの柔道家も持っている心だと思います。ですが、細かい部分になると、JUDOの否定まではしないが、あれは柔道ではない、と。『柔道と言えるのか』という議論はありましたが、我々はJUDOを目指す必要はありません。されど、世界と戦って勝つためにはJUDOを研究し、知ることが必要になります。ですので、良いところは認めようよという意識の改革を進めました」
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