前期は25%の営業増益を達成するなど好業績を維持している。だが全面的にスマホの時代になった今、収益源の先細りも懸念される。顧客基盤を生かし、生活全般をサポートする企業を目指す考えだ。
(聞き手は 本誌編集長 飯田 展久)
PROFILE
[たなか・たかし]1957年2月、大阪府生まれ。81年、京都大学大学院工学研究科修了後、国際電信電話(現KDDI)に入社。85年に米スタンフォード大学大学院電子工学専攻修了。低価格で無線データ通信を提供するグループ会社のUQコミュニケーションズの立ち上げに関わり、2007年に同社社長に就任。2010年12月にKDDI社長に就任。
IoT、まずは「つながる車」から。トヨタと世界で連携。
物販や損保事業などグループ事業も拡大。
問 これまでの通信会社ではなく、「ライフデザインの会社に変わる」と宣言しましたね。
答 お客様のより良い生活をデザインする会社になりたいということです。2019年3月期までの中期経営目標のテーマに決めました。具体的には、スマートフォンや全国に約2500あるauショップなどを通して、食料品や日用品から生命保険、ローンまで様々な商品やサービスを提供していくことに力を入れていきます。
私は社長になって6年目ですが、この3年間は営業利益の2桁増を続けてきました。ただ、良い時代が長く続くはずがないという思いを持っています。
ガラパゴス携帯とかフィーチャーフォンと呼ばれていたスマホ以前の携帯端末では、通信会社の我々自身が通信ネットワークの提供だけではなく、端末から携帯の中で操作するアプリケーションまで開発・設計し、お客様に提供してきました。
いわゆる垂直統合型の事業モデルだったのです。ところが『iPhone』を典型例とするスマホの時代になって、端末は、世界市場をターゲットに開発・製造されたものをお客様が購入するようになりました。同じくコンテンツも米グーグルなどOTT(Over The Topの略)と呼ばれる、通信事業者と関係のないプレーヤーの独壇場で、我々のような通信会社はいつの間にか通信しか提供できなくなってしまっています。
お客様との接点が希薄になっていくのを避けるために、会社を変えなければならないということです。
IoT時代へ通信会社の危機感
問 そうした危機感は通信業界全体にもあるのですか。
答 はい。6月末に中国・上海で開かれた通信会社のトップたちが集まる国際会議でもお客様との関係が弱まっているという問題意識を皆さんが持っていました。
さらに、業界全体にIoT(モノのインターネット)の時代への危機感もあります。例えば、家を守るためのセキュリティー機器とか、装着型の血圧計などに通信機能が当たり前に組み込まれたときに、性能面からどの商品を買うべきかを考えても、どの通信会社の回線を使うかはあまり気にしませんよね。
その結果、通信は何らかのIoTに対応した機器が提供するサービスの『部品』になってしまいかねない。もちろん部品メーカーを卑下するつもりはありませんが、お客様との関係が、これまでよりも遠くなってしまうのは確かで、行き着く先は価格競争にならざるを得ない。お客様との関係が、希薄になりつつある結果の一つが、低価格を売り物にするMVNO(仮想移動体通信事業者)の台頭ではないかとも感じています。
問 IoTの時代の到来は通信会社にとって逆風ということですか。
答 そうとも言えません。通信だけにこだわらず、少し世界を広げて考えるとIoTの時代にできることはたくさんあるからです。
例えば、当社は損害保険や住宅ローンもグループ会社で提供していますが、クルマの中にいろいろなセンサーが付いていて、そのドライバーの運転が上手で、事故を起こす可能性が低いことが分かっているなら、保険料を安くすることができるかもしれない。家に何らかのセキュリティー機器が付いているなら、ローンの負担を軽減するといった工夫も可能になるかもしれません。
今は次の時代の商品やサービスを考える段階ですが、IoTによって既存のサービスを私たちの通信ネットワークと組み合わせることで、新しいものが生まれます。それを私たちは提供していけるはずだと思っています。
問 コネクテッドカー(つながる車)を対象とした通信サービスで、トヨタ自動車と協力していくのですね。
答 IoTで最初に来るのはコネクテッドカーであると思っています。トヨタのクルマのIoTプラットフォームを、当社が世界規模で引き受けていきます。海外キャリアとの交渉など、通信回りは全部当社が担当します。当社の一番大きなユーザーがトヨタさんであることは変わりませんが、ほかの自動車メーカーにも興味を持っていただいています。
問 今年7月に、ソフトバンクグループの孫正義社長がIoT時代の到来を見据えて、半導体設計会社の英アーム・ホールディングスを約3兆3千億円で買収すると発表しましたね。
答 孫さんはアームのチップの設計図を押さえることで、グローバルな展開を考えているのだと思います。NTTの鵜浦(博夫社長)さんは回線の提供に徹して企業を支える黒子になるとおっしゃっています。アプローチの仕方は三者三様で違いますが、IoTの時代を迎えるに当たって、通信会社は変わっていかなければならないという問題意識は同じだと思いますね。
問 大手通信会社3社は熾烈なシェア競争を繰り広げてきました。
答 以前のようにNTTドコモとKDDIとソフトバンクの間でお客様が移動することはなくなってきています。一方で、MVNOにはお客様が流出していますが、それは当社のグループ会社のMVNOである、UQコミュニケーションズで対抗すればいい。KDDIの方では価格競争ではなく、スマホで生活を変えていくといったポジティブな提案に力を入れていきます。
問 大手各社が進める三者三様の道の中で、「au経済圏」を標榜し、非通信事業の収益を増やす路線を明確にしたわけですね。
答 スマホやauショップなどを介した商品販売や決済サービスの取引額を2019年3月期までに現在の3倍の2兆円に伸ばす計画です。
私たちauのユーザーは携帯電話利用者のシェアで30%弱を占め、様々な経済活動をやっています。これはかなりの規模で、私たちにもっとできることがあるのではないか。そのためにサービスを提供する企業との連携を進めたいと考えてきました。
auユーザー向けに、全国のコンビニエンスストアなどリアル店舗で使える電子マネー『au WALLET』をプリペイドカードとクレジットカードで提供しています。ビッグデータとしてお客様の顧客データや購買データなどを集めて、お客様が欲しいと思っている可能性が高い商品をレコメンド(推薦)する機能を付けています。au WALLETにはポイントプログラムが付いているので、利用者に様々な機会でポイントがたまるようにしています。au WALLETをもっと使ってもらうようにauユーザーに促すためです。
始めたときには、大丈夫ですか、と心配されたのですが、今、auショップで特に売れているのが水なのです。
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